在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/10/06
家族支援の乏しい独居の脊柱管狭窄症患者に対し、疼痛管理と生活支援体制の構築を進めた事例
要点サマリー
腰部脊柱管狭窄症による下肢痛としびれを有する77歳独居男性に対し、歩行能力の低下と通院負担の増加を契機として訪問診療を導入した事例である。本人は自宅での生活継続を希望していたが、日常的に支援を依頼できる家族がおらず、疼痛による活動量低下や転倒に加えて、急変時の支援者不在も課題となっていた。訪問診療では疼痛や歩行状態、薬剤の効果・副作用を継続的に評価するとともに、ケアマネジャーと連携して介護保険の区分変更や訪問看護など支援体制の見直しを進めた。ケアマネジャーにとっては、独居患者では現在のADLだけでなく、「状態が悪化したときに誰が支えるのか」まで含めて評価し、医療・介護・福祉による支援導線を早期から構築することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:77歳・男性
居住地:該当なし
世帯構成:独居
キーパーソン:なし
保険・福祉情報
生活保護:受給中
介護保険:要支援2
介護保険:身体機能と生活状況の変化を踏まえ、区分変更を検討
診断名
・腰部脊柱管狭窄症
・下肢痛・しびれ
・歩行障害
導入の背景
腰部脊柱管狭窄症に対して外来通院を継続していたが、下肢の疼痛やしびれが徐々に増悪し、長時間の歩行や立位が難しくなっていた。
通院にはタクシーを利用していたものの、乗車・降車時の動作そのものが身体的な負担となり、継続的な外来受診が難しくなっていた。また、生活保護を受給しており、生活上の経済的な制約もある中で、通院に伴う負担を減らす必要があった。
本人は独居で、可能な限り現在の自宅で生活を続けたいという意向を持っていた。一方、日常的に支援を依頼できる家族はおらず、遠方に兄がいるものの長期間連絡を取っていない状況であった。
疼痛としびれによって外出機会が減少し、生活範囲も徐々に狭くなっていた。今後さらに身体機能が低下した場合には、現在の要支援2のサービスだけでは生活を維持することが難しくなる可能性も考えられた。
このため、通院負担を軽減しながら疼痛や身体機能を継続的に管理するとともに、独居生活を支える医療・介護体制を見直す目的で訪問診療を導入した。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、下肢痛としびれの部位や程度、出現する時間帯、歩行との関連などを確認した。
自宅内での歩行や立ち上がり動作についても評価したところ、疼痛を避けるために活動量が低下し、外出機会も減少していた。また、歩行時の不安定さもあり、転倒を恐れて必要以上に動かなくなっている状況もみられた。
疼痛管理については、鎮痛薬の効果と副作用を確認しながら薬剤調整を行った。痛みを完全に消失させることだけを目標とせず、疼痛をコントロールすることで本人が日常生活の中で必要な活動を維持できるかという視点から評価した。
ケアマネジャーとは身体機能や生活状況の変化を共有し、現在の要支援2という認定区分と実際の支援ニーズに乖離がないかを確認した。今後必要となる支援量を見据え、区分変更を検討するとともに、訪問看護など定期的に本人の状態を確認できる支援についても検討した。
また、家族による日常的な支援が期待しにくいため、急な体調悪化や転倒、入院が必要となった場合を想定し、緊急時の連絡体制についても確認した。
遠方に住む兄については、長期間交流がないことから支援者として当然に位置づけることはせず、本人の意向を確認しながら、必要時に連絡可能かどうかを整理していくこととした。
医療対応の詳細
主病
腰部脊柱管狭窄症
対応内容
・下肢疼痛、しびれの部位・程度・経過の確認
・歩行、立位、起居動作の評価
・転倒リスクの確認
・鎮痛薬の効果および副作用の確認
・疼痛による活動量低下の評価
・ADL、IADLおよび生活範囲の変化の確認
・ケアマネジャーとの生活状況・支援ニーズの共有
・介護保険区分変更に向けた身体状況の評価
・訪問看護等の追加支援の検討
・急変、転倒、入院時を想定した連絡体制の確認
・本人の意向を踏まえた親族との連絡方法の整理
医療処置
該当なし
支援のポイント
・独居で現在生活できていても、状態悪化時に誰が支援するのかを早期から確認する
・疼痛の強さだけでなく、疼痛によって歩行、外出、買い物など生活範囲がどの程度変化しているかを評価する
・疼痛による活動量低下が、さらなる筋力低下や転倒リスクにつながらないかを確認する
・現在の介護認定区分と実際の生活上の困難に乖離がある場合は、区分変更を含めて支援体制全体を見直す
・家族が存在することと、実際に支援を受けられることを区別して考える
・親族との関係が希薄な場合は、本人の意向を確認せずに緊急連絡先や支援者として扱わない
・ケアマネジャー、訪問診療、訪問看護など複数の支援者が定期的に関わり、独居生活の変化を早期に把握する体制を整える
考察
本症例は、腰部脊柱管狭窄症による疼痛としびれが通院困難につながっただけでなく、独居かつ家族からの日常的な支援を期待しにくいことが、在宅療養上の重要な課題となった事例である。
脊柱管狭窄症では、疼痛やしびれが強くなることで外出や活動を避けるようになり、生活範囲が徐々に狭くなることがある。その結果、身体活動の低下がさらに筋力や移動能力を低下させ、転倒や生活機能低下につながる可能性がある。そのため、疼痛の程度だけでなく、「痛みによって何ができなくなっているか」という生活機能の変化を把握することが重要である。
また、独居患者では、現在の日常生活がある程度自立していても、転倒や急な体調悪化をきっかけとして短期間で生活が立ち行かなくなる可能性がある。本症例では、日常的に支援を依頼できる家族がいないため、本人の身体機能低下だけでなく、支援者が不在であること自体を在宅療養上のリスクとして捉える必要があった。
介護保険の区分変更についても、単に介護度を上げることを目的とするのではなく、現在の生活実態に必要な支援を確保できるかという視点から検討することが重要である。区分変更を契機として、訪問看護や生活支援を含めた支援体制全体を再評価する必要がある。
ケアマネジャーにとっては、「現在一人で暮らせているか」だけではなく、「今より少し状態が悪化したときに誰が支えるのか」を具体的に考えることが重要である。訪問診療を通院の代替としてだけでなく、医療・介護職が定期的に生活へ関わり、変化を早期に把握する支援の一部として位置づけることが、家族支援の乏しい独居患者の在宅生活継続につながる。
付記情報
・診療科:内科、整形外科
・病態・症状:その他
・世帯構成:独居