在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/10/06
通院負担の増加を契機に訪問診療へ移行し、慢性疾患管理を継続した高齢女性の事例
要点サマリー
高血圧症と気管支喘息を有する89歳女性に対し、加齢に伴う通院負担の増加を契機として訪問診療へ移行した事例である。疾患自体は比較的安定していたものの、医療機関までの移動や待ち時間を含めた外出が本人の負担となり、長女夫婦による送迎・付き添いの負担も増えていた。本人・家族と相談し、月1回の訪問診療を開始し、血圧、呼吸状態、喘息症状、服薬・吸入状況などを継続的に確認した。ケアマネジャーにとっては、疾患の重症度だけでなく、通院という行為が本人や家族の生活に与えている負担を評価し、完全に通院できなくなる前から医療提供方法を見直すことが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:89歳・女性
居住地:該当なし
世帯構成:親子
キーパーソン:長女(同居)
保険・福祉情報
介護保険:要支援2
長女夫婦による日常的な見守りと生活支援を受けながら在宅生活を継続している。
診断名
・高血圧症
・気管支喘息
導入の背景
高血圧症と気管支喘息に対し、定期的な外来通院を継続していた。受診間隔は比較的長く、血圧や喘息症状にも大きな変動はなく、慢性疾患の状態は安定していた。
一方、高齢化に伴い、診察そのものよりも自宅から医療機関まで移動することや、待ち時間を含めて長時間外出することが身体的な負担となってきた。
本人からも、病状が大きく悪化しているわけではないものの、受診のために外出することへの負担が聞かれるようになった。
これまでは同居する長女夫婦が送迎や受診同行を担っていたが、家族にとっても継続的な付き添いが負担となりつつあった。
疾患自体は比較的安定しており、頻回な医療処置を必要とする状況ではなかったため、無理に外来通院を継続するのではなく、自宅で慢性疾患管理を続ける方法として訪問診療を提案した。
本人・家族と相談し、生活リズムを大きく変えずに医療との接点を維持する目的で、月1回の訪問診療を開始した。
介入内容と経過
訪問診療開始時には、これまでの外来での経過や治療内容を確認し、従来の治療方針を大きく変更することなく在宅での管理へ移行した。
定期訪問では血圧を確認するとともに、家庭での血圧推移、服薬状況、めまいやふらつきなどの症状について評価した。
気管支喘息については、喘鳴、咳、痰、息苦しさなどの有無を確認し、吸入薬を含めた治療の継続状況を把握した。症状が安定している場合でも、小さな呼吸状態の変化があれば早めに相談するよう本人・家族と共有した。
また、長女から日常生活の様子を聞き取り、食事、睡眠、活動量など、外来診療では把握しにくかった生活状況についても継続的に確認した。
訪問診療への移行により本人の外出負担が軽減され、長女夫婦についても定期的な送迎や付き添いの負担が減少した。
その後も大きな喘息発作や血圧変動は認めず、長女夫婦の見守りを受けながら安定した在宅生活を継続している。
医療対応の詳細
主病
高血圧症、気管支喘息
対応内容
・血圧の定期的な確認
・降圧薬の服薬状況および副作用の確認
・喘鳴、咳、痰、息苦しさなど喘息症状の評価
・呼吸状態の確認
・吸入薬を含めた治療継続状況の確認
・感冒などを契機とした喘息増悪への注意
・食事、睡眠、活動量など生活状況の確認
・長女からの生活状況の聴取
・身体機能の変化を踏まえた今後の支援体制の評価
医療処置
該当なし
支援のポイント
・完全に通院できなくなる前から、通院そのものが本人の負担となっていないかを確認する
・疾患の重症度だけでなく、移動、待ち時間、受診後の疲労まで含めて通院負担を評価する
・家族による送迎や付き添いがどの程度の負担となっているかを確認する
・病状が安定している場合も、本人の状態に応じた無理のない診療体制を検討する
・喘息では症状が落ち着いている時期にも、呼吸状態や吸入薬の使用状況を継続して確認する
・訪問時には疾患管理だけでなく、食事、睡眠、活動性など生活全体の変化を把握する
・現在の家族支援が維持できていても、身体機能の低下を見据えて支援体制を継続的に見直す
考察
本症例は、重症化や急性増悪を契機とするのではなく、加齢によって通院そのものが負担となった段階で訪問診療へ移行した事例である。
高齢者では、外来通院を継続できているという事実だけから、無理なく通院できているとは判断できない。自宅を出る準備、医療機関までの移動、待ち時間、帰宅後の疲労まで含めれば、安定した慢性疾患の診療であっても本人に大きな負担となる場合がある。
また、通院が家族の送迎や付き添いによって成立している場合には、本人だけでなく家族の負担も評価する必要がある。本症例では、訪問診療への移行によって慢性疾患管理を継続しながら、本人と家族双方の通院負担を軽減することができた。
ケアマネジャーにとっては、「まだ病院へ行けるか」ではなく、「現在の生活を維持するうえで、通院という医療提供方法が適切か」という視点が重要である。状態が比較的安定している段階から医療提供方法を調整することで、本人の生活リズムを維持しながら、今後の身体機能低下にも対応しやすい在宅療養体制を整えることができる。
付記情報
・診療科:内科、呼吸器内科
・病態・症状:その他
・世帯構成:親子