在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/10/06
大腿骨近位部骨折後の通院負担を軽減し、生活再建を支えた訪問診療導入事例
要点サマリー
自宅での転倒により大腿骨近位部を骨折し、手術・リハビリテーション後に自宅退院となった88歳女性に対し、通院に伴う本人・家族の負担軽減を目的として訪問診療を導入した事例である。歩行器を使用すれば短距離の移動は可能であったものの、疼痛や筋力低下が残り、外来受診には車への乗り降りを含めて家族の介助が必要であった。また、食欲低下や便秘など整形外科領域以外の体調変化もみられていた。訪問診療導入後は、骨折後の身体状態だけでなく、食事、睡眠、排便など生活全体を継続的に評価し、訪問リハビリとも連携して活動量を調整した。ケアマネジャーにとっては、「歩行できるか」だけで通院可能性を判断せず、外出準備、移動、乗降、家族の付き添いまで含めて通院負担を評価することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:88歳・女性
居住地:該当なし
世帯構成:その他
キーパーソン:家族
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療制度
介護保険:利用あり
訪問診療、訪問リハビリ、福祉用具貸与、居宅介護支援を組み合わせて在宅生活を支援した。
診断名
・大腿骨近位部骨折術後
・骨折後の疼痛
・筋力低下
導入の背景
自宅で転倒し、大腿骨近位部を骨折した。手術後にリハビリテーションを行い、歩行器を使用すれば短距離の移動が可能となったため自宅退院となった。
しかし、退院後も骨折部周囲の疼痛や筋力低下が残っており、外出には大きな負担を伴っていた。整形外科への定期通院時には、家族が移動を介助し、車への乗り降りについても支援する必要があった。
本人が歩行できるようになったことで一見すると外来通院が可能な状態ではあったが、実際には受診準備から移動、乗降、院内での移動まで含めると、本人の身体的負担は大きかった。また、家族も通院のたびに仕事との調整が必要となり、継続的な付き添いが負担となっていた。
さらに、退院後には食欲低下や便秘など、骨折以外の体調変化もみられるようになった。
ケアマネジャーから、通院そのものが在宅生活を続けるうえでの負担になっているとの相談があり、骨折後の経過だけでなく全身状態を自宅で継続的に管理する目的で訪問診療を導入した。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、骨折後の疼痛、歩行状態、筋力、日常生活動作などを継続的に確認した。
また、整形外科的な状態だけでなく、食事摂取量、睡眠、排便状況などについても確認し、退院後の生活全体を医学的に評価した。
訪問リハビリとも情報を共有し、疼痛や疲労の程度、自宅内での移動状況を踏まえて活動量を調整した。無理に活動量を増やすのではなく、本人が安全に移動できる範囲を徐々に広げることを目指した。
福祉用具も活用しながら生活環境を整えた結果、本人の状態に合わせて自宅内での活動を継続できるようになり、徐々に移動範囲も広がった。
外来受診のための移動が減ったことで本人の身体的負担が軽減され、家族についても通院同行に伴う時間的・身体的負担が軽減した。
医療対応の詳細
主病
大腿骨近位部骨折術後
対応内容
・骨折後の疼痛の継続的な評価
・歩行状態および筋力の確認
・ADLの評価
・転倒リスクの確認
・食事摂取量および全身状態の評価
・睡眠状況の確認
・排便状況および便秘への対応
・訪問リハビリとの活動状況の共有
・本人の状態に応じた活動量の調整
・福祉用具を含めた生活環境の確認
・家族の通院介助負担を踏まえた療養体制の調整
医療処置
該当なし
支援のポイント
・歩行可能であることだけを理由に、外来通院が無理なく継続できると判断しない
・受診準備、屋外移動、車への乗降、院内移動、帰宅後の疲労まで含めて通院負担を評価する
・家族が通院同行を行っている場合は、就労や生活への影響も確認する
・骨折後は疼痛や歩行状態だけでなく、食欲、睡眠、排便など全身状態の変化も把握する
・訪問リハビリと連携し、本人の生活環境に合わせて無理のない活動量を設定する
・再転倒を防ぐため、身体機能だけでなく福祉用具や住環境も含めて評価する
・「通院できるか」ではなく、「通院を続けることが在宅生活全体にどの程度の負担となっているか」という視点で訪問診療の必要性を検討する
考察
本症例は、大腿骨近位部骨折後に歩行器での移動が可能となった一方、外来通院には本人・家族双方に大きな負担が残っていた事例である。
高齢者の通院可能性を評価する際には、「歩けるか」「車椅子へ移乗できるか」といった身体機能だけでは十分ではない。外出のための準備、玄関から車までの移動、車への乗降、医療機関内での移動や待ち時間など、一連の受診行動が本人に与える負担を確認する必要がある。
また、骨折後の在宅生活では整形外科的な経過だけでなく、活動量低下に伴う食欲低下や便秘、筋力低下など、生活全体の変化にも注意する必要がある。本症例では、訪問診療による全身管理と訪問リハビリを組み合わせることで、本人の身体状況と実際の生活に合わせた支援につなげることができた。
ケアマネジャーにとっては、「リハビリによって歩けるようになったから通院へ戻す」という判断だけではなく、その通院を維持するために本人と家族がどの程度の負担を負っているかを把握することが重要である。訪問診療は、通院不能となった後に導入するだけではなく、通院負担を軽減しながら自宅での生活再建を進めるための選択肢にもなり得る。
付記情報
・診療科:内科、整形外科、リハビリテーション科
・病態・症状:その他
・世帯構成:その他