在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/10/06
前立腺肥大症による夜間頻尿と排尿困難に対し、生活状況を踏まえて訪問診療を導入した事例
要点サマリー
前立腺肥大症による排尿障害を有する80歳男性に対し、夜間頻尿や排尿困難の悪化と家族の受診判断への不安を契機として訪問診療を導入した事例である。本人は外来診療の場では症状を十分に説明できないことがあり、夜間の排尿回数や睡眠への影響など、実際の生活状況を把握することが課題となっていた。訪問診療では、排尿回数、残尿感、夜間覚醒、服薬状況などを継続的に確認し、薬剤調整を行った結果、夜間頻尿が改善し、睡眠や日中の活動にも良い変化がみられた。ケアマネジャーにとっては、排尿障害を本人の訴えだけで判断せず、夜間の生活やトイレ動作など介護現場で把握できる情報を医療側へ共有することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:80歳・男性
居住地:該当なし
世帯構成:その他
キーパーソン:家族
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療制度
介護保険:利用あり
訪問診療、居宅介護支援を基本とし、必要に応じて訪問看護等を組み合わせて支援する体制とした。
診断名
・前立腺肥大症
・排尿障害
・夜間頻尿
導入の背景
前立腺肥大症による排尿障害があり、これまでは家族の付き添いによって泌尿器科への通院を継続していた。
しかし、徐々に夜間頻尿と排尿困難が強くなり、夜間に何度も排尿のために起きるようになった。その結果、十分な睡眠を確保できず、日中の活動量も低下していた。
一方、外来受診時には本人が普段の排尿状況や症状の変化を十分に説明できないこともあり、自宅でどの程度困っているのかが医療側へ伝わりにくい状況があった。
家族も、排尿回数の増加や排尿困難を認識していたものの、どの程度の変化で受診すべきなのか、急いで医療へ相談すべき状態なのか判断することに不安を感じていた。
そこで、ケアマネジャーから相談を受け、自宅で実際の排尿状況や服薬状況を確認しながら継続的に管理する目的で訪問診療を導入した。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、排尿回数、夜間の排尿回数、尿量、残尿感、排尿困難の程度などを継続的に確認した。
特に、排尿症状だけを評価するのではなく、夜間に何度起きているか、それによって睡眠がどの程度妨げられているか、日中の活動にどのような影響が生じているかについても確認した。
また、現在の服薬内容と服薬状況を確認し、症状の推移をみながら薬剤調整を行った。
その後、夜間頻尿は徐々に改善し、夜間にまとまった睡眠を取れる時間が増えた。それに伴い、日中の活動量についても改善がみられた。
家族には、排尿症状の変化だけでなく、急に尿が出なくなる、下腹部の張りや強い苦痛が出現するなど、早期に医療へ相談すべき状態について共有した。
また、訪問診療で対応可能な範囲を超える症状や専門的評価が必要となった場合には、泌尿器科受診へつなげる方針とした。
これにより、家族が排尿症状の変化を一人で判断する必要がなくなり、在宅生活における安心感につながった。
医療対応の詳細
主病
前立腺肥大症
対応内容
・排尿回数および夜間頻尿の確認
・排尿困難、残尿感など排尿症状の評価
・尿量の確認
・夜間覚醒および睡眠状況の確認
・排尿症状による日中活動への影響の評価
・服薬内容および服薬状況の確認
・症状に応じた薬剤調整
・急性尿閉など状態悪化時の相談方法の共有
・必要時の泌尿器科への受診調整
・ケアマネジャー、必要に応じた訪問看護との情報共有
・家族への状態説明と相談体制の整備
医療処置
該当なし
支援のポイント
・排尿障害を本人の「年齢のせい」という認識だけで判断せず、実際の生活への影響を確認する
・夜間頻尿では回数だけでなく、睡眠不足や日中活動への影響まで評価する
・外来で本人が症状を十分に説明できない場合は、家族や介護職が把握している生活情報を医療側へ共有する
・失禁、トイレまでの移動状況、夜間覚醒など、介護現場で把握しやすい変化も重要な医療情報として扱う
・家族に、経過観察できる変化と早期相談が必要な変化を具体的に共有する
・訪問診療ですべてを完結させるのではなく、専門的評価が必要な場合は泌尿器科へつなぐ
・排尿症状そのものだけでなく、その改善によって睡眠や活動性を維持するという生活面の目標も共有する
考察
本症例は、前立腺肥大症による排尿障害が徐々に悪化していたものの、外来診療だけでは日常生活における症状の程度を十分に把握しにくかった事例である。
排尿障害は、高齢者本人が「年齢のせい」と考えて我慢していることもあり、症状があっても積極的に医療者へ伝えられない場合がある。また、夜間頻尿は排尿症状だけの問題ではなく、睡眠不足を介して日中の活動低下や生活リズムの乱れにつながる可能性がある。
本症例では、自宅で排尿状況や夜間の生活を具体的に確認することで、症状が生活へ及ぼしている影響を把握し、薬剤調整につなげることができた。また、家族に相談すべき症状を共有したことで、状態変化を家族だけで判断する負担の軽減にもつながった。
ケアマネジャーにとっては、排尿障害を疾患名だけで捉えるのではなく、「夜中に何回起きているか」「トイレまで安全に移動できているか」「睡眠や日中の活動に影響していないか」といった生活上の変化を把握し、医療側へ伝えることが重要である。介護現場で得られる生活情報が、適切な医学的評価や治療につながることを示す症例である。
付記情報
・診療科:内科、泌尿器科
・病態・症状:その他
・世帯構成:その他