在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/10/06
脳梗塞後の嚥下障害と胃瘻管理を要する高齢女性に対し、家族への医療的ケア支援を含めた在宅療養体制を構築した事例
要点サマリー
脳梗塞後の嚥下機能低下により誤嚥性肺炎を繰り返し、胃瘻造設後に自宅退院となった86歳女性に対し、継続的な医学管理と家族の負担軽減を目的として訪問診療を導入した事例である。本人は住み慣れた自宅での生活を希望していたが、主介護者である娘には胃瘻管理や体調変化への対応に不安があり、車椅子での外来受診と仕事の両立も課題となっていた。訪問診療、訪問看護、ケアマネジャーが連携し、胃瘻部の状態、栄養状態、脱水や感染兆候などを継続的に確認するとともに、家族だけに医療的ケアを委ねない体制を構築した。ケアマネジャーにとっては、医療的ケアを伴う退院では、退院前から誰が何を担うのかを具体的に整理することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:86歳・女性
居住地:該当なし
世帯構成:親子
キーパーソン:娘
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療制度
介護保険:利用あり
訪問診療、訪問看護、居宅介護支援を組み合わせて在宅療養を支援した。
診断名
・脳梗塞後遺症
・嚥下障害
・誤嚥性肺炎
・胃瘻造設後
導入の背景
脳梗塞後に嚥下機能が低下し、誤嚥性肺炎を繰り返していた。
入院中に胃瘻を造設し、全身状態が安定したため自宅退院となった。本人には、可能な限り住み慣れた自宅で生活を続けたいという希望があった。
退院後は娘が主な介護者となったが、胃瘻からの栄養管理や胃瘻部の観察、体調変化への対応など、これまで家庭では経験していなかった医療的ケアを担うことに不安を感じていた。
また、定期的な診察や胃瘻管理を継続する必要があったものの、本人は車椅子での移動を要し、外来受診には家族の付き添いが必要であった。娘には仕事もあり、継続的な通院同行との両立が課題となっていた。
このため、退院支援担当者とケアマネジャーが中心となって在宅療養体制を検討し、本人の通院負担と家族の介護負担を軽減しながら必要な医療を継続する目的で訪問診療を導入した。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、胃瘻部の発赤や滲出液などの局所状態を確認するとともに、食事・栄養状態、体重、水分摂取状況、発熱などの感染兆候を継続的に評価した。
胃瘻からの栄養についても、体重や全身状態を確認しながら内容を調整し、脱水や低栄養を予防できるよう管理した。
訪問看護とも連携し、診察日以外にも胃瘻部や全身状態を確認できる体制を構築した。体調変化がみられた場合には、訪問看護から訪問診療へ情報を共有し、必要な対応を早期に検討できるようにした。
また、娘が胃瘻管理や体調変化について一人で判断することがないよう、相談すべき変化や連絡先を共有した。
医療的ケアを家族だけに委ねるのではなく、医師、訪問看護師、ケアマネジャーがそれぞれの役割を担うことで、本人の在宅療養を継続するとともに、家族の心理的・時間的負担の軽減につながった。
医療対応の詳細
主病
脳梗塞後遺症、嚥下障害
対応内容
・胃瘻部の発赤、滲出液など局所状態の確認
・胃瘻からの栄養管理
・体重および栄養状態の継続的な評価
・水分摂取状況および脱水兆候の確認
・発熱など感染兆候の確認
・誤嚥性肺炎再発を念頭に置いた全身状態の評価
・訪問看護との胃瘻部および全身状態の情報共有
・状態変化時の早期対応
・家族への胃瘻管理に関する説明
・家族が相談すべき体調変化と連絡方法の共有
・ケアマネジャーとの在宅療養状況の共有
医療処置
・胃瘻管理
支援のポイント
・胃瘻など医療的ケアを伴う退院では、退院前から誰がどのケアを担うのかを具体的に整理する
・主介護者が医療的ケアを一人で抱え込まないよう、訪問診療と訪問看護の役割を明確にする
・胃瘻部だけでなく、体重、栄養、水分摂取、感染兆候など全身状態を併せて評価する
・車椅子での通院に家族の付き添いが必要な場合は、本人だけでなく家族の通院負担も評価する
・訪問看護が日常的に把握した変化を医師へ共有し、早期に対応できる連携体制を整える
・家族にはすべての判断を求めず、どのような変化があれば医療者へ相談すべきかを具体的に共有する
・本人の在宅希望を実現するためにも、介護者が無理なく支援を継続できる体制を整える
考察
本症例は、脳梗塞後の嚥下障害により胃瘻管理を必要とする患者が、自宅退院後も継続的な医療的ケアを必要とした事例である。
胃瘻造設によって退院が可能となっても、その後の管理を家族だけに委ねれば、介護者に大きな心理的・身体的負担が生じる可能性がある。特に、胃瘻部の異常や脱水、感染などについて家族自身が判断しなければならない状況は、在宅療養を継続するうえで大きな不安となる。
本症例では、訪問診療が定期的な医学的評価を行い、訪問看護が日常的な観察を担うことで、家族だけに医療的ケアを集中させない体制を構築した。また、体重や栄養状態まで含めて評価することで、胃瘻そのものを管理するだけではなく、本人の全身状態を支えることにつながった。
ケアマネジャーにとっては、医療的ケアを必要とする患者の退院支援では、「家族が対応できるか」だけを確認するのではなく、「家族が何を担い、何を医療・看護職へ任せるのか」を具体的に整理することが重要である。本人の在宅希望を実現するためにも、家族が安心して介護を継続できる役割分担を退院前から設計することが求められる。
付記情報
・診療科:内科
・病態・症状:脳卒中(脳梗塞、脳出血)、その他
・世帯構成:親子