在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/09/28
家族それぞれの不安を調整しながら、本人の希望に沿った在宅看取りを実現した事例
要点サマリー
進行性の間質性肺疾患と慢性呼吸不全を有する87歳女性に対し、本人の「自宅で過ごしたい」という希望を踏まえて訪問診療を導入した事例である。家族も在宅療養を希望していたものの、急変時の対応や看取りへの不安、介護を担う家族の負担感にはそれぞれ違いがあった。退院前から訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、病院が連携し、急変時の相談先や終末期に起こり得る変化を具体的に共有した。在宅では呼吸苦の緩和と在宅酸素療法を継続しながら、家族の心理的負担にも配慮し、最期は家族に見守られながら自宅で永眠した。ケアマネジャーにとっては、「家族が在宅看取りを希望している」という一言で判断せず、家族それぞれの不安と実際に担える役割を整理することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:87歳・女性
居住地:名古屋市南区
世帯構成:親子
キーパーソン:長男の妻(同居)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割
介護保険:要介護4、負担割合1割
診断名
・進行性間質性肺疾患
・慢性呼吸不全
・骨粗鬆症
・サルコペニア
導入の背景
進行性の呼吸器疾患により、徐々に息切れと体力低下が進行していた。
本人は自立心が強く、家族に過度な負担をかけることを望まず、できることは自分で行いながら生活していた。また、病院よりも住み慣れた自宅で過ごしたいという意向を以前から示していた。
その後、呼吸苦が増悪し、食事摂取量も低下したため入院となった。酸素投与や点滴などの治療を受けたが、全身状態の十分な改善は得られず、病院からは今後さらに状態が悪化する可能性と、苦痛緩和を中心とした療養への移行について説明された。
本人は自宅へ戻ることを希望していたが、家族の受け止め方には違いがあった。長男は自宅での急変や看取りに不安を感じ、長男の妻は本人の希望を叶えたいという思いを持ちながらも、実際に介護を担うことへの責任を感じていた。長女や遠方の次男にも、それぞれ支援可能な範囲や急変時への不安があった。
このため、家族全体が在宅を希望しているというだけで判断せず、それぞれの不安と役割を整理したうえで、本人が自宅で過ごすために必要な医療・介護体制を整えることとなった。
介入内容と経過
退院前から病院、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャーが情報を共有し、本人の状態と今後予想される変化について家族へ説明した。
特に、呼吸状態が急激に悪化する可能性、食事や水分摂取が徐々に難しくなる可能性、状態変化時の相談先について具体的に共有した。
また、在宅看取りは家族だけですべてを担うものではなく、医師、訪問看護師、介護職がそれぞれの役割を持って支えることを説明した。
自宅へ戻った本人は、臥床時間が長く、身体機能も大きく低下していたが、住み慣れた環境に戻れたことへの安心感を示した。
訪問診療では呼吸状態や苦痛の程度を継続的に評価し、在宅酸素療法を継続した。訪問看護とも連携し、本人が安楽に過ごせるよう体位や日常生活上の負担にも配慮した。
食事や水分摂取量が低下した際には、家族が無理に摂取させようとして疲弊しないよう、終末期に起こり得る自然な身体変化について説明した。
介護を中心的に担っていた長男の妻には疲労や睡眠不足もみられたため、常に本人のそばに付き添う必要はないこと、状態変化時には相談できることを繰り返し伝え、介護者が休息できるよう支援した。
その後、呼吸状態と全身状態は徐々に低下した。最期は家族がそばに集まり、本人は住み慣れた自宅で家族に見守られながら永眠した。
医療対応の詳細
主病
進行性間質性肺疾患、慢性呼吸不全
対応内容
・呼吸状態および呼吸苦の継続的な評価
・在宅酸素療法の継続管理
・食事、水分摂取状況の確認
・全身状態および終末期の身体変化の評価
・本人の苦痛を軽減するための療養環境調整
・訪問看護との状態共有
・状態変化時の相談方法の家族への説明
・終末期に起こり得る変化についての家族への説明
・主介護者の疲労や不安の確認
・家族それぞれの役割と支援可能範囲の調整
・本人の希望を踏まえた在宅看取り支援
医療処置
・在宅酸素療法
支援のポイント
・「家族が在宅看取りを希望している」という言葉だけでなく、家族一人ひとりの不安を確認する
・誰が主に介護を担い、誰がどこまで支援できるのかを具体的に整理する
・急変時の連絡先や医療者の対応方法を退院前から明確にする
・食事や水分摂取量の低下など、終末期に起こり得る変化を事前に説明する
・家族が常時付き添わなければならないという負担感を軽減し、介護者の休息も確保する
・遠方家族にも病状や療養方針を共有し、家族間の認識のずれを減らす
・ケアマネジャーだけで医療的判断を抱えず、訪問診療・訪問看護へ速やかにつなぐ
考察
本症例は、本人と家族の双方が在宅療養を希望していたものの、家族一人ひとりが抱える不安や役割には違いがあり、その調整が重要となった事例である。
在宅看取りでは、「家族も自宅を希望している」という事実だけでは、実際に療養生活を継続できるかどうかを判断できない。主介護者として日常的に本人のそばにいる家族と、別居・遠方にいる家族とでは、感じる責任や不安の内容も異なる。そのため、家族を一つの単位として捉えすぎず、それぞれが何に不安を感じ、何を担えるのかを確認する必要がある。
また、終末期には食事量の低下、傾眠、呼吸状態の変化などが生じる。こうした変化を家族が知らないまま迎えると、「何とかしなければならない」という焦りや、自分たちの介護が不十分だったのではないかという後悔につながる可能性がある。医療職が状態変化の意味をあらかじめ説明し、その都度相談できる体制を整えることは、本人の苦痛軽減だけでなく家族の心の準備を支えることにもつながる。
ケアマネジャーにとっては、本人の希望を確認するだけでなく、家族の不安を具体化し、それを医療・看護・介護の支援へ置き換えることが重要である。在宅看取りは家族の頑張りだけで成立するものではなく、多職種が役割を分担することで、本人と家族双方を支えることができる。
付記情報
・診療科:内科、呼吸器内科
・病態・症状:その他
・世帯構成:親子