在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/09/28
本人の在宅希望を尊重しながら、介護する妻の負担軽減を図ったパーキンソン病患者の事例
要点サマリー
パーキンソン病を有する78歳男性に対し、歩行能力低下や転倒の増加により通院が困難となり、訪問診療を導入した事例である。本人は自立への思いが強く、自宅での生活継続を希望していた一方、日常生活を支える妻には身体的・精神的な介護負担が蓄積していた。在宅医療では、本人の病状や服薬、排泄、歩行状態を管理するだけでなく、訪問看護やケアマネジャーと連携して妻の疲労や夫婦関係の変化についても継続的に確認した。ケアマネジャーにとっては、本人の「自宅で暮らしたい」という希望と介護者が支え続けられる状態を一体として評価し、介護者が限界に達する前に支援を調整することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:78歳・男性
居住地:名古屋市中村区
世帯構成:夫婦のみ
キーパーソン:妻(同居)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割
介護保険:要介護3、負担割合1割
診断名
・パーキンソン病
・前立腺肥大症
・慢性便秘症
・骨粗鬆症
導入の背景
パーキンソン病の進行に伴って動作が徐々に緩慢となり、立ち上がりや歩行に時間を要するようになっていた。自宅内での転倒も増え、トイレや入浴などでは妻の介助を必要とする場面が増加していた。
本人は自立への思いが強く、できることは自分で行いたいという意向を持っていた。また、施設入所ではなく、可能な限り自宅で生活を続けることを希望していた。
妻も本人の意向を尊重し、身の回りの支援を担っていたが、本人は介助されることに抵抗を示すことがあり、妻の声かけに対して強い口調で返す場面もみられていた。
本人にとっては自立を維持したいという思いの表れであった一方、日常的に介護を担う妻にとっては精神的な負担となっていた。妻からは、本人を自宅で支えたい気持ちはあるものの、自身も疲弊しているとの相談が聞かれるようになった。
また、本人は外来受診にも消極的となり、身体機能低下も重なって通院継続が難しくなっていた。
本人の自宅生活を維持するためには、疾病管理だけでなく、介護を担う妻が無理なく支援を続けられる体制が必要であると判断し、訪問診療を導入することとなった。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、パーキンソン病による運動症状、歩行状態、転倒状況、服薬状況を確認するとともに、食事、水分摂取、排泄など日常生活全体を継続的に評価した。
本人には、介護を増やすための訪問ではなく、通院負担を減らしながら自宅で診療を継続する方法として説明し、自立への思いを損なわないよう配慮した。
訪問看護やケアマネジャーとも連携し、本人の病状だけでなく、妻の疲労や睡眠状況、本人との関係性、介護負担の変化についても情報を共有した。
妻の疲労が強くなっている、本人の言動が強くなっているといった小さな変化がみられた場合には、一つの職種だけで対応せず、医療・介護職間で早めに共有し、必要な支援方法を検討した。
また、別居する長男にも状況を共有し、週末を中心とした訪問や必要時の支援を依頼することで、妻だけに介護が集中しないよう調整した。
継続的な支援の中でも本人の自宅生活への希望は変わらなかったが、妻が疲弊すれば在宅生活そのものが維持できなくなるため、本人と妻の双方を支援対象として捉えながら療養生活を支えた。
医療対応の詳細
主病
パーキンソン病
対応内容
・パーキンソン病による運動症状の評価
・歩行状態および転倒リスクの確認
・服薬状況の確認
・食事、水分摂取状況の評価
・排尿、排便状況の確認
・前立腺肥大症および慢性便秘症の継続管理
・訪問看護との病状および生活状況の共有
・妻の介護負担、疲労、睡眠状況の確認
・本人と妻の関係性の変化についての情報共有
・長男を含めた家族支援体制の調整
・介護負担の変化に応じたサービス調整の検討
医療処置
該当なし
支援のポイント
・本人の在宅希望だけでなく、主介護者が支援を継続できる状態かを併せて評価する
・介護者が献身的であっても、疲労や睡眠不足、精神的負担を定期的に確認する
・本人の介助拒否や強い言動を単純に問題行動と捉えず、自立を失うことへの葛藤など背景を確認する
・本人の気持ちを理解することと、介護者に負担を我慢してもらうことを混同しない
・介護者が「限界」と訴えるまで待たず、小さな変化の段階で多職種間に共有する
・同居する妻だけに介護を集中させず、別居家族が担える役割について具体的に検討する
・本人ができることは維持しながら、介護者の負担が大きい部分をサービスで補う
考察
本症例は、本人が明確に自宅生活の継続を希望している一方、その生活を実際に支えている妻の介護負担が徐々に増大していた事例である。
在宅療養では本人の意思を尊重することが重要であるが、その希望が家族の継続的な介護によって成り立っている場合、介護者の状態も同時に評価する必要がある。本人の希望だけを優先して支援を組み立てれば、妻の疲弊によって結果的に在宅生活を維持できなくなる可能性がある。
また、本人が妻に強い口調で接する背景には、パーキンソン病によって徐々に身体機能が低下し、これまでできていたことを他者に任せなければならなくなることへの葛藤も考えられた。その背景を理解することは重要であるが、介護者が精神的につらい状況を受け入れ続けることを求めるものではない。本人への支援と介護者を守る支援を同時に考える必要がある。
ケアマネジャーにとっては、「本人が家にいたい」という意向と「家族がどこまで支え続けられるか」を別々の課題として扱うのではなく、一つの在宅療養条件として捉えることが重要である。妻の疲労、本人の言動、転倒の増加など、小さな変化を早期に共有し、必要に応じて家族やサービスへ負担を分散することが、本人の希望する在宅生活の継続につながる。
付記情報
・診療科:内科、神経内科
・病態・症状:パーキンソン病、その他
・世帯構成:夫婦のみ