在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/09/28
認知機能低下と帯状疱疹後神経痛により通院困難となった高齢女性に対し、家族負担を踏まえて訪問診療を導入した事例
要点サマリー
血管性認知症を有する84歳女性に対し、帯状疱疹後神経痛による強い疼痛と歩行能力低下、受診拒否が重なり、家族による通院支援が困難となったことから訪問診療を導入した事例である。認知機能低下により本人からの症状説明だけでは状態把握が難しいため、家族から得られる生活上の変化も併せて評価し、疼痛、睡眠、排泄、転倒などを総合的に管理した。ケアマネジャーにとっては、「受診を拒否している」と捉えるだけでなく、認知機能、疼痛、身体機能、家族負担など受診を困難にしている要因を整理し、必要に応じて医療を生活の場へ届ける視点が重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:84歳・女性
居住地:名古屋市南区
世帯構成:親子
キーパーソン:長女(同居)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割
介護保険:要介護3
診断名
・血管性認知症
・帯状疱疹後神経痛
・変形性膝関節症
・慢性便秘症
・骨粗鬆症
導入の背景
以前から物忘れがみられていたが、本人は自立心が強く、家族から介助を受けることには抵抗を示していた。
認知機能低下が進むにつれ、服薬したことを忘れて再度服用しようとする、夜間に家の中を歩き回る、同居家族を他人と認識するような発言がみられるなど、生活への影響が徐々に大きくなった。
その後、背部から胸部にかけて強い疼痛と皮疹が出現し、帯状疱疹と診断された。治療後も疼痛が残り、帯状疱疹後神経痛として強い痛みが続いたことで、臥床時間が増加した。
疼痛により着替えやトイレ移動にも介助を必要とするようになり、睡眠障害や昼夜逆転も目立つようになった。さらに転倒も繰り返すようになり、外出そのものが大きな負担となった。
本人は病院受診に消極的であり、家族も疼痛、認知機能低下、転倒リスクのある本人を外来へ連れて行くことに限界を感じていた。また、複数の医療機関を必要時に受診していたため、認知機能や疼痛、生活状況を継続的に相談できる主治医が明確でないことも課題であった。
本人へ、自宅で医師の診察を受けられることを説明したところ受け入れが得られたため、慢性的な症状管理と家族負担軽減を目的として訪問診療を導入した。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、帯状疱疹後神経痛の程度や皮膚状態を確認するとともに、食事、睡眠、排泄、認知機能、歩行状態、転倒状況など生活全体を継続的に評価した。
認知機能低下により本人自身が症状の経過や転倒時の状況を十分に説明できない場面もあったため、本人の訴えだけではなく、同居する長女から得られる普段との違いや生活上の変化を重要な情報として扱った。
特に、精神状態や認知症状の変化がみられた際には、認知症の進行だけを原因と考えず、疼痛、睡眠不足、便秘、脱水など身体的要因の影響も含めて評価した。
ケアマネジャーや介護サービス事業所とも情報を共有し、本人の状態変化だけでなく家族が担っている介護量についても確認した。外来へ連れて行くことを家族だけに求めるのではなく、自宅で医療と介護が連携して本人を支える体制へ移行した。
これにより、本人は住み慣れた自宅で必要な医療を受けられるようになり、家族にとっても症状や認知機能の変化を医療者へ相談できる環境が整った。
医療対応の詳細
主病
血管性認知症、帯状疱疹後神経痛
対応内容
・帯状疱疹後神経痛の疼痛評価
・皮膚状態の確認
・睡眠および昼夜逆転の状況確認
・認知機能と精神状態の継続的な評価
・服薬状況および重複服薬リスクの確認
・食事、水分摂取状況の評価
・便秘など身体症状の確認
・歩行状態および転倒リスクの評価
・家族から得られる生活上の変化を踏まえた全身評価
・ケアマネジャー、介護サービス事業所との情報共有
・家族への病状説明と相談体制の整備
医療処置
該当なし
支援のポイント
・本人が受診を拒否する場合は、医療そのものへの拒否なのか、疼痛や移動負担など別の要因があるのかを確認する
・認知機能低下がある場合は、本人の訴えだけでなく家族が把握した生活上の変化も評価に用いる
・認知症状の悪化がみられても、疼痛、脱水、便秘、睡眠不足など身体的要因の影響を確認する
・転倒や歩行能力低下がある場合は、外来受診そのものが安全に行えるかを評価する
・家族が「病院へ連れて行けない」状況を介護力不足と捉えず、何が受診を困難にしているのかを具体的に整理する
・複数の医療機関を受診している場合は、全身状態や生活状況を継続的に把握する主治医機能を整える
・ケアマネジャーだけで受診調整を抱え込まず、訪問診療を含めて医療を生活の場へ届ける方法を検討する
考察
本症例は、認知機能低下、帯状疱疹後神経痛による強い疼痛、歩行能力低下、本人の受診拒否が重なり、従来の外来中心の医療を継続することが難しくなった事例である。
認知症患者では、普段と異なる言動や生活リズムの変化がみられた際に、すべてを認知症の進行として捉えないことが重要である。疼痛、便秘、脱水、睡眠障害などの身体的な問題が認知機能や行動に影響している可能性もあり、生活全体から変化を捉える必要がある。
また、家族が本人を医療機関へ連れて行けなくなった場合、それを家族の協力不足と考えるのではなく、本人の受診拒否、疼痛、転倒リスク、身体機能低下、家族の就労状況など複数の要因を整理する必要がある。
ケアマネジャーにとっては、「どうやって本人を病院へ連れて行くか」という発想だけでなく、「どうすれば本人の生活の場で必要な医療を受けられるか」という視点を持つことが重要である。本症例では、訪問診療を導入することで、本人の生活環境を維持しながら、家族だけでは判断しにくかった身体症状や認知機能の変化を医療・介護双方で支える体制につながった。
付記情報
・診療科:内科
・病態・症状:認知症、その他
・世帯構成:親子