在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/07/27
入院拒否と妄想症状を有する独居高齢女性に対し、内科・精神科の連携による訪問診療を導入した事例
要点サマリー
ANCA関連血管炎、糖尿病、高血圧症など複数の身体疾患に加え、妄想性障害を有する86歳独居女性に対し、内科と精神科が連携して訪問診療を導入した事例である。腎機能悪化が認められ入院を勧められたものの、本人の拒否感が強く、在宅生活を継続するための医療体制が必要となった。在宅医療では、身体疾患の管理と定期的な血液検査を行いながら、妄想症状に配慮した関係構築を継続し、別居する長女とも診察時に情報共有を行った。ケアマネジャーにとっては、入院拒否を単なる治療拒否として捉えず、本人が受け入れられる医療の形を整え、関係を切らさず支援することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:86歳・女性
居住地:名古屋市港区
世帯構成:独居
キーパーソン:長女(別居・県内在住)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割
介護保険:要介護2、負担割合1割
診断名
・妄想性障害
・ANCA関連血管炎
・糖尿病
・脂質異常症
・高血圧症
・脊柱管狭窄症
・血小板増加症
導入の背景
独居生活を続け、以前は自宅周囲の草むしりや外来通院も自力で行っていたが、倦怠感や両耳後方の疼痛が出現し、徐々に身体機能が低下した。その後は這うようにして移動する状態となり、発熱を契機に基幹病院へ入院した。
抗菌薬による治療後も発熱と炎症反応が改善せず、精査の結果、ANCA関連血管炎と診断された。ステロイド治療後にリハビリテーション病院を経て自宅へ退院した。
退院後の外来受診では腎機能悪化などが認められ、入院治療を強く勧められたものの、本人の拒否感が強く、自宅生活を継続することとなった。
また、妄想性障害を背景に、他者が窓や玄関から侵入することへの強い不安があり、侵入を防ごうとする行動もみられていた。外来通院や入院を前提とした医療継続が難しく、身体疾患と精神症状の双方を自宅で継続的に管理する必要があると判断され、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、内科と精神科が連携し、ANCA関連血管炎、糖尿病、高血圧症などの身体疾患管理と、妄想症状の評価を並行して行った。
ANCA関連血管炎の治療経過やステロイドの影響、腎機能、炎症反応などを確認するため、本人と長女の意向を踏まえて定期的な血液検査を実施した。
妄想症状に対しては、本人の訴えを正面から否定したり、行動を強く制止したりするのではなく、不安の背景を確認しながら継続的に関わった。診療や支援を急いで進めることよりも、訪問を受け入れてもらい、関係を切らさないことを優先した。
別居する長女とは、必要に応じて診察時に電話をつなぎ、本人の状態、検査結果、治療方針を共有した。本人だけでは十分に把握しにくい内容について長女が補完できる体制を整えた。
導入当初は信頼関係の構築が難しいことも懸念されたが、継続的な訪問と本人の不安に配慮した対応により、医療者との関係は徐々に安定した。現在も入院を強制することなく、本人が受け入れられる形で身体疾患と精神症状の管理を継続している。
医療対応の詳細
主病
妄想性障害、ANCA関連血管炎、糖尿病、高血圧症
対応内容
・ANCA関連血管炎の病状および治療経過の確認
・腎機能、炎症反応、血糖値などの定期的な血液検査
・ステロイド治療に伴う全身状態の評価
・糖尿病、高血圧症、脂質異常症の継続的管理
・妄想内容、不安、生活行動の継続的評価
・本人の拒否感に配慮した内科・精神科の連携診療
・長女との電話を活用した診療情報の共有
・本人が受け入れられる治療方針と在宅支援体制の調整
医療処置
該当なし
支援のポイント
・入院拒否を一律に問題行動と捉えず、本人が何に不安や抵抗を感じているかを確認する
・入院が必要と考えられる場合でも、本人が拒否した後の在宅支援体制を具体的に整える
・身体疾患と精神疾患を分けて対応せず、内科と精神科で情報や方針を共有する
・妄想を正面から否定せず、本人の不安を強めない関わり方を多職種で統一する
・診療や指導を急ぐより、訪問を継続し、医療との関係を切らさないことを優先する
・別居家族を診察時の電話参加などで支援体制に組み込み、本人だけに判断を委ねない
・定期的な検査が必要な疾患では、本人の負担と拒否感に配慮しながら検査頻度を調整する
考察
本症例は、複数の身体疾患に加えて妄想性障害があり、入院や医療介入に対する拒否感が強い独居高齢者を、内科と精神科の連携によって支援した事例である。
医学的に入院が望ましい状態であっても、本人の同意が得られず、直ちに入院へつなげられないことがある。その際、拒否を理由に支援を終了するのではなく、在宅で何を確認し、どのような変化があれば再度治療方針を検討するかを整理する必要がある。
精神症状を有する患者では、治療の必要性を繰り返し説明するだけでは、かえって不信感や拒否を強める場合がある。本症例では、妄想内容を強く否定せず、本人の不安に配慮しながら継続的に訪問したことで、医療者との関係を構築することができた。
ケアマネジャーにとっては、治療を受けさせることだけを目標とせず、本人が受け入れられる医療との接点を残し、家族、内科、精神科、多職種が長期的に関わり続ける支援設計が重要である。
付記情報
・診療科:内科、精神科
・病態・症状:その他
・世帯構成:独居