在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/07/27
介護疲弊による不適切ケアのリスクがある親子世帯に対し、介護者支援を含めた訪問診療を導入した事例
要点サマリー
アルツハイマー型認知症と高血圧を有し、昼夜逆転、反復質問、食事拒否などがみられていた92歳女性に対し、訪問診療を導入した事例である。同居する長男が就労しながら介護を担っていたが、夜間対応の継続によって心身ともに疲弊し、不適切なケアへ移行するリスクが高まっていた。在宅医療では認知症管理だけでなく、長男の睡眠状況や精神的負担を評価し、地域包括支援センター、訪問看護、ケアマネジャーと連携してショートステイ利用を調整した。ケアマネジャーにとっては、本人の症状だけでなく、介護者の限界や孤立を早期に把握し、介護者自身を支援対象として捉えることが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:92歳・女性
居住地:名古屋市中川区
世帯構成:親子
キーパーソン:長男(同居)
保険・福祉情報
医療保険:医療保険利用
介護保険:要介護4
診断名
・アルツハイマー型認知症
・高血圧
導入の背景
長男と二人で生活していたが、アルツハイマー型認知症の進行に伴い、昼夜逆転、同じ質問の繰り返し、食事拒否などが目立つようになっていた。
長男は会社員として働きながら介護を担っていたが、夜間対応が続く中で徐々に疲弊し、ケアマネジャーに介護継続の限界を訴える場面もみられていた。
訪問サービス利用時には、本人の上腕部に複数の皮下出血が確認され、本人にも強い萎縮反応がみられたことから、関係機関で情報共有が行われた。虐待と断定できる状況ではなかったが、長男の介護疲弊により、不適切なケアへ移行するリスクが高い状態と判断された。
一方、長男は母親を施設へ入所させることに強い罪悪感を抱き、自分が介護を担うべきだと考えていた。このため、認知症管理に加え、介護者支援と在宅療養体制の再構築を目的として訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、認知症症状、食事摂取状況、睡眠リズム、血圧などを継続的に確認した。本人の身体状態に加え、皮下出血の有無や長男に対する反応など、生活場面での変化についても多職種で観察した。
ケアマネジャー、地域包括支援センター、訪問看護と定期的に情報共有を行い、長男の睡眠状況や精神的負担、介護に対する切迫感を確認した。
長男には、介護者が疲弊すること自体は異常ではなく、一人で抱え込む必要はないことを繰り返し伝えた。また、休息時間を確保するため、ショートステイ利用を積極的に調整した。
ショートステイ利用開始後は、長男の表情や本人への対応に改善がみられた。長男自身も外部支援を受けることへの抵抗が軽減し、施設入所を急ぐことなく在宅生活を継続できる状態となった。
医療対応の詳細
主病
アルツハイマー型認知症、高血圧
対応内容
・認知症症状および生活リズムの継続的評価
・食事摂取状況および全身状態の確認
・高血圧に対する継続的管理
・皮下出血や本人の反応を含めた生活状況の観察
・介護者の睡眠状況および精神的負担の評価
・地域包括支援センター、訪問看護、ケアマネジャーとの情報共有
・ショートステイ利用による介護者の休息確保
医療処置
該当なし
支援のポイント
・皮下出血や萎縮反応がみられた場合は、虐待と即断せず、本人の安全と介護者の疲弊を多職種で評価する
・本人の認知症症状だけでなく、介護者の睡眠、就労状況、精神的負担を確認する
・介護者が限界を訴えた段階で、ショートステイなどの休息支援を具体的に提案する
・施設入所を勧めるだけでなく、罪悪感や責任感にも配慮しながら選択肢を整理する
・介護者が疲れることは異常ではないと伝え、相談や支援利用への心理的抵抗を軽減する
・本人と介護者の双方を支援対象として、地域包括支援センターや訪問看護と継続的に情報共有する
考察
本症例は、アルツハイマー型認知症の進行に加え、就労しながら介護を担う長男の疲弊が、在宅生活継続の大きな課題となっていた事例である。
皮下出血や本人の萎縮反応がみられた場合には、安全確保を優先しながら、虐待の有無だけでなく、介護者がどのような状況に追い込まれているかを評価する必要がある。介護者の睡眠不足や孤立が続けば、意図せず不適切な対応へ移行する可能性がある。
本症例では、長男を非難するのではなく、介護者自身も支援を必要としている存在として捉え、ショートステイによる休息確保と多職種による継続的な見守りを行った。ケアマネジャーにとっては、問題が深刻化してから対応するのではなく、介護者の限界を示す言葉や行動を早期に把握し、家庭内の負担を外部支援へ分散する視点が重要である。
付記情報
・診療科:内科、精神科
・病態・症状:認知症
・世帯構成:親子