在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/08/18
高血糖と脱水を繰り返す独居糖尿病患者に対し、生活支援を含めた訪問診療を導入した事例
要点サマリー
2型糖尿病、慢性腎臓病、高血圧を有する76歳独居男性に対し、高血糖と脱水による入院を契機として訪問診療を導入した事例である。妻との死別後、食生活の乱れや自己管理意欲の低下が進み、外来診療だけでは生活背景を含めた血糖管理が困難となっていた。在宅医療では、訪問看護による血糖・服薬状況の確認、ヘルパーによる買い物や食生活の支援、管理栄養士との連携を組み合わせ、数値管理だけでなく生活そのものを整える支援を行った。ケアマネジャーにとっては、慢性疾患のコントロール不良を本人の自己管理だけの問題と捉えず、食事、服薬、独居環境など生活背景まで含めて支援を設計することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:76歳・男性
居住地:名古屋市中村区
世帯構成:独居
キーパーソン:該当なし
保険・福祉情報
医療保険:医療保険利用
介護保険:要介護1
診断名
・2型糖尿病
・慢性腎臓病
・高血圧症
導入の背景
妻との死別後も独居生活を継続していた。当初は自身で外来通院を続けていたが、徐々に食生活が乱れ、コンビニ弁当や菓子類を中心とした食事となっていった。
近隣に親族がおらず、日常的な体調変化や生活上の問題に気づく人も少ない環境であった。外来では血糖コントロール不良が続いていたものの、本人の自己管理への意欲は低下していた。インスリン治療も提案されていたが、通院負担や自己注射への抵抗感もあり、受診自体が途切れがちとなっていた。
その後、ふらつきによる転倒を契機に救急搬送され、脱水と著明な高血糖を認めて入院となった。退院支援では、従来の外来通院中心の体制では同様の状態悪化を繰り返す可能性があると考えられ、在宅で継続的に病状と生活状況を確認する必要性が検討された。
本人からも通院負担を軽減したいとの希望があり、退院後の再発予防と在宅生活の安定を目的として訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、血糖値だけでなく、食事内容、水分摂取量、服薬状況、活動状況など生活全体を確認しながら糖尿病と慢性腎臓病の管理を行った。
訪問看護と連携し、血糖測定や服薬状況の確認を行うことで、状態変化を早期に把握できる体制を整えた。また、ヘルパーによる買い物支援を導入し、日常的にどのような食品を購入しているかも含めて食生活を調整した。
食事については、厳格な制限を課すことで食欲そのものが低下したり、支援を拒否したりすることがないよう配慮した。管理栄養士とも情報を共有し、本人が実際の生活の中で継続できる内容を重視して支援した。
定期的に自宅で状態を確認できるようになったことで血糖変動は安定し、脱水による緊急搬送も減少した。本人からも、それまでの外来受診で感じていた負担感が軽減したとの発言があり、医療への抵抗感も和らいだ。
数値を正常化することだけを目的とせず、本人の生活が破綻しない範囲で継続可能な疾患管理を行う体制につながった。
医療対応の詳細
主病
2型糖尿病、慢性腎臓病
対応内容
・血糖値および全身状態の継続的な評価
・脱水兆候と水分摂取状況の確認
・服薬状況の確認
・慢性腎臓病、高血圧症を含めた慢性疾患管理
・訪問看護と連携した血糖測定および状態観察
・ヘルパーと連携した買い物、食生活の支援
・管理栄養士と連携した継続可能な食事内容の調整
・本人の治療に対する意欲や負担感を踏まえた治療方針の調整
医療処置
該当なし
支援のポイント
・血糖コントロール不良の背景に、食事、服薬、独居環境など生活上の要因がないか確認する
・独居患者では、外来受診時の情報だけで生活実態を判断せず、在宅での状況把握を行う
・訪問看護による医学的な観察と、ヘルパーによる生活支援を組み合わせる
・食事療法は理想的な制限だけを求めず、本人が継続できる内容を多職種で検討する
・本人の自己管理意欲低下を単なる「治療への非協力」と捉えず、これまでの生活変化や負担感を確認する
・高血糖や脱水による入院を繰り返す場合は、退院後の医療だけでなく生活環境そのものを再評価する
考察
本症例は、糖尿病の治療内容だけではなく、妻との死別後の生活変化と独居環境が血糖コントロール悪化に大きく関係していた事例である。
外来診療では検査値や処方内容を確認できても、患者が実際に何を食べ、どの程度水分を摂り、薬をどのように管理しているかまでは十分に把握できない場合がある。特に独居高齢者では、生活上の小さな乱れが積み重なり、高血糖や脱水などの急性増悪として表面化することがある。
本症例では、訪問診療だけで問題を解決しようとせず、訪問看護、ヘルパー、管理栄養士がそれぞれの立場から生活に介入したことが重要であった。また、厳格な食事制限を一方的に求めるのではなく、本人が無理なく続けられる方法を選択したことで、医療そのものへの抵抗感の軽減にもつながった。
ケアマネジャーにとっては、慢性疾患管理を「本人が頑張れるかどうか」の問題として捉えるのではなく、本人が過度に頑張らなくても療養を継続できる生活環境を多職種で作るという視点が重要である。
付記情報
・診療科:内科
・病態・症状:その他
・世帯構成:独居