在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/08/18
かかりつけ医不在の認知機能低下高齢者に対し、介護保険申請を契機として訪問診療を導入した事例
要点サマリー
認知機能低下が進行している80歳女性に対し、介護保険申請に必要な主治医が不在であったことを契機として訪問診療を導入した事例である。夫がすでに訪問診療を利用していたため、夫婦を一つの生活単位として支援し、認知機能評価と介護保険申請に必要な主治医意見書の作成を行った。高齢の夫による老老介護の状況も踏まえ、別居する長女と情報共有しながら今後の支援体制を整えた。ケアマネジャーにとっては、認知症の確定診断を待つのではなく、生活上の困りごとや介護保険利用の必要性が生じた段階から医療との接点を構築することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:80歳・女性
居住地:該当なし
世帯構成:夫婦のみ
キーパーソン:長女(別居・車で約1時間)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険2割
介護保険:未利用(申請予定)
診断名
・認知機能低下
・認知症疑い
導入の背景
以前より物忘れや判断力低下がみられていたが、定期的に受診している医療機関はなく、かかりつけ医不在の状態であった。
日常生活では、服薬管理や金銭管理に不安がみられ、家族からも認知機能低下を心配する声が聞かれていた。介護保険申請を進める必要性が生じたものの、主治医意見書を依頼できる医療機関がなく、医療との接点を新たに構築する必要があった。
また、同居する夫も高齢であり、夫婦のみで生活を維持することへの不安が高まっていた。夫はすでに訪問診療を利用していたため、本人についても自宅で認知機能や生活状況を評価し、介護保険申請と今後の支援体制整備を進める目的で訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、認知機能と日常生活の状況を確認し、物忘れや判断力低下が服薬、金銭管理、生活行動にどの程度影響しているかを評価した。
本人は自身の認知機能低下について十分な認識がない場面もあり、医療介入の必要性を理解することが難しい状況もみられた。そのため、本人への説明だけで完結させず、夫や長女とも情報を共有しながら関係構築を進めた。
介護保険申請に必要な主治医意見書を作成し、介護サービス導入に向けた準備を進めた。また、高齢の夫に支援が集中しないよう、夫婦双方の生活状況と支援力を確認しながら今後の支援方針を調整した。
別居する長女とも継続的に連絡を取り、認知機能低下が進行した場合の生活支援や意思決定について早期から共有した。結果として、医療と介護双方の支援導入に向けた基盤を整えることができた。
医療対応の詳細
主病
認知機能低下、認知症疑い
対応内容
・認知機能の継続的な評価
・日常生活への影響の確認
・服薬管理および金銭管理状況の把握
・主治医意見書の作成
・介護保険申請に伴う医学的支援
・夫を含めた世帯全体の生活状況の評価
・長女への病状説明および情報共有
・認知機能低下の進行を見据えた支援体制の調整
医療処置
該当なし
支援のポイント
・かかりつけ医不在が介護保険申請の障壁となっている場合は、早期に医療との接点を構築する
・認知症の確定診断を待たず、服薬や金銭管理など生活への影響がみられた段階から介入を検討する
・本人の病識が乏しい場合は、説明だけで理解を求めず、家族や多職種と連携して支援する
・高齢の配偶者を安定した介護者と前提にせず、介護負担や支援可能性を確認する
・夫婦双方に支援が必要な場合は、個人単位ではなく世帯単位で在宅生活を評価する
・別居家族とも早期から情報共有し、認知機能低下が進行した場合の支援体制を準備する
考察
本症例は、認知機能低下そのものに加え、かかりつけ医不在と高齢夫婦のみの生活が、介護サービス導入を進めるうえで課題となっていた事例である。
認知機能が低下している高齢者では、医療機関への定期受診が途切れたまま生活していることがあり、介護保険サービスが必要となった段階で初めて主治医不在が問題となる場合がある。そのため、介護保険申請を単なる手続きとして捉えず、今後の医療との接点を作る機会として活用することが重要である。
また、本症例では夫も高齢であり、本人の支援を夫だけに委ねることには限界があった。訪問診療によって夫婦双方の生活状況を把握し、別居する長女を含めた支援体制を早期から検討することで、将来的な生活機能低下にも備えることが可能となった。
ケアマネジャーにとっては、認知症の診断名だけに着目するのではなく、服薬管理、金銭管理、家族の介護力など生活上の変化を捉え、医療と介護を早期につなぐ視点が重要である。
付記情報
・診療科:内科、老年内科
・病態・症状:認知症
・世帯構成:夫婦のみ