在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/07/27
両側大腿骨転子部骨折後の廃用と誤嚥性肺炎を経て、家族に見守られながら在宅看取りを行った事例
要点サマリー
両側大腿骨転子部骨折後に身体機能と意欲が低下し、経口摂取困難、喀痰吸引、点滴管理を必要とする状態となった98歳男性に対し、訪問診療を導入した事例である。誤嚥性肺炎による再入院を経た後、家族は病状の進行を受け止め、自宅での看取りを希望した。在宅医療では、褥瘡処置、点滴、喀痰吸引、在宅酸素療法を行いながら苦痛の軽減と家族支援を継続し、最期は家族に見守られながら自宅で永眠した。ケアマネジャーにとっては、本人の状態変化に応じて医療処置と家族の心理的準備を並行して支え、看取りの方針を繰り返し共有することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:98歳・男性
居住地:名古屋市千種区
世帯構成:親子
キーパーソン:長男(同居)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割
介護保険:要介護5、負担割合1割
診断名
・両側大腿骨転子部骨折術後
・骨粗鬆症
・認知症
・廃用症候群
・狭心症
・膀胱炎
・誤嚥性肺炎
導入の背景
当初は次男と二人で生活し、日中は独居となる時間もあった。デイサービス利用中の転倒により右大腿骨転子部骨折を受傷し、手術後にリハビリテーション病院へ転院した。
自宅には段差が多く、元の住環境へ戻ることが難しかったため、長男宅へ退院した。しかし、退院直後に一人でトイレへ向かおうとして再び転倒し、左大腿骨転子部骨折を受傷した。再度手術を受け、リハビリテーション病院へ転院したが、入院中に意欲低下と離床困難が進み、食事摂取も難しくなった。
点滴や喀痰吸引が必要となり、膀胱炎も繰り返していた。長男夫婦は本人を自宅で介護することを希望し、退院後の全身管理と医療処置を継続する目的で訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
自宅へ戻った後は家族の関わりもあり、経口摂取が可能となったため、全身状態を確認しながら点滴量を段階的に調整した。
その後、血圧低下や頻脈などの状態変化がみられ、家族の希望も踏まえて緊急入院となった。入院後は誤嚥性肺炎と診断され、治療と褥瘡処置を受けた。
病状が落ち着いた後、再び自宅へ退院した。家族は、以前に一時的な体調改善がみられたことで、その後の急激な状態悪化を当初は受け止めきれずにいた。しかし、病状や今後起こり得る変化について繰り返し説明を受ける中で、徐々に看取りへの心の準備が整っていった。
自宅退院後は呼吸状態が不安定となったため、在宅酸素療法を開始した。褥瘡処置、点滴、喀痰吸引を継続しながら、本人の苦痛を軽減し、家族が安心して見守れる体制を整えた。
最期は長男夫婦と孫がそろう中、家族に見守られながら自宅で永眠した。
医療対応の詳細
主病
両側大腿骨転子部骨折術後、廃用症候群、認知症、誤嚥性肺炎
対応内容
・全身状態および呼吸状態の継続的評価
・経口摂取量に応じた点滴量の調整
・喀痰量や呼吸状態に応じた吸引管理
・誤嚥性肺炎再発兆候の確認
・褥瘡の評価および処置
・在宅酸素療法による呼吸苦への対応
・家族への病状説明と看取りに向けた意思決定支援
・急変時の連絡方法と入院希望の確認
・在宅看取りを見据えた多職種間の情報共有
医療処置
・褥瘡処置
・点滴
・喀痰吸引
・在宅酸素療法
支援のポイント
・骨折後は歩行能力だけでなく、意欲、食事摂取、離床状況を含めて廃用の進行を評価する
・退院直後は再転倒や誤嚥性肺炎などのリスクが高いため、早期に訪問診療と訪問看護の体制を整える
・一時的な体調改善がみられた場合も、家族へ今後起こり得る状態変化を継続的に説明する
・家族が病状悪化を受け止めきれない場合は、結論を急がず、繰り返し話し合う機会を設ける
・点滴や吸引などの医療処置だけでなく、本人の苦痛と家族の介護負担を踏まえて支援内容を調整する
・看取り場所や急変時の対応について、本人の状態と家族の意向に応じて繰り返し確認する
・家族がそろって最期の時間を過ごせるよう、遠方家族を含めた情報共有を行う
考察
本症例は、両側大腿骨転子部骨折を契機として身体機能と全身状態が急速に低下し、誤嚥性肺炎による再入院を経ながら、最終的に自宅看取りへ移行した事例である。
超高齢者では、骨折手術後に身体機能が一定程度回復しても、入院の長期化による廃用、食事摂取量の低下、感染症の反復によって全身状態が大きく低下することがある。そのため、退院後の支援では運動機能だけでなく、呼吸状態、栄養状態、皮膚状態、覚醒や意欲を一体的に評価する必要がある。
また、家族は一時的な状態改善を回復の兆しとして受け止め、その後の悪化に強い戸惑いを感じる場合がある。本症例では、家族の受け止めを否定せず、病状と今後の見通しを繰り返し共有したことで、在宅看取りへの心理的準備が進んだ。
ケアマネジャーにとっては、看取りの意思を一度確認して終えるのではなく、本人の状態変化と家族の気持ちに応じて療養方針を繰り返し確認することが重要である。医療処置を整えるだけでなく、家族が本人との最期の時間を安心して過ごせるよう支援することが、在宅看取りを支える大きな役割となる。
付記情報
・診療科:内科、整形外科
・病態・症状:認知症、その他
・世帯構成:親子