在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/06/09
大腿骨近位部骨折術後に通院継続が困難となった独居高齢女性に対し、生活再建を目的に訪問診療を導入した事例
要点サマリー
大腿骨近位部骨折術後に歩行能力が低下し、高血圧および心房細動の通院継続が困難となった独居高齢女性に対し、訪問診療を導入した事例である。骨折後は身体機能低下に加えて転倒への恐怖が強く、外出機会が減少し、医療から離れていくリスクが高まっていた。在宅医療では慢性疾患管理を継続しながら、訪問リハビリや福祉用具調整と連携し、安全に動ける生活環境の再構築を支援した。ケアマネジャーにとっては、骨折後の身体機能低下だけでなく、自信喪失や活動性低下も含めて支援設計を行うことが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:89歳・女性
居住地:名古屋市北区
世帯構成:独居
キーパーソン:長女(別居)
保険・福祉情報
医療保険:医療保険利用
介護保険:要介護2
診断名
・大腿骨近位部骨折術後
・高血圧
・心房細動
導入の背景
夫を亡くした後、一人暮らしを続けていた。もともと高血圧や心房細動で定期通院を継続しており、近所への買い物も自分で行うなど、比較的自立した生活を送っていた。
しかし、自宅内で転倒し大腿骨近位部骨折を受傷した。手術後に回復期リハビリ病院を経て退院したものの、歩行能力は受傷前の状態まで戻らず、杖歩行が必要となった。
骨折後は身体機能低下だけでなく、転倒時の恐怖体験が強く残り、また転んだらどうしよう、外へ出るのが怖いという思いから外出機会が急激に減少した。これまで継続できていた通院も徐々に負担となり、予約変更や受診延期が増えていった。
長女が付き添いをしていたが、仕事と育児を抱えており、継続的な支援には限界があった。退院後しばらくしてケアマネジャーが訪問した際には、日中もほとんど椅子に座ったまま過ごしており、活動量低下による筋力低下も懸念される状況であった。このため、疾患管理の継続と生活再建の双方を目的として訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、高血圧および心房細動の継続管理を行いながら、骨折後の生活状況と活動性低下の程度を在宅で確認した。通院負担がなくなったことで、医療管理の中断は回避され、継続的な状態把握が可能となった。
訪問リハビリと連携し、歩行状態、転倒リスク、活動量、外出状況を継続的に評価した。また、福祉用具事業所とも協力し、手すり設置や動線改善を行い、自宅内で安全に動ける環境整備を進めた。
本人は転ぶくらいなら動かない方がよいと考えていたため、安全に動くことの重要性について繰り返し説明した。長女とも定期的に情報共有を行い、付き添いや支援負担が過度にならないよう調整した。
その結果、受診中断は解消し、訪問リハビリも継続できるようになった。徐々に自宅周辺への散歩も再開し、骨折後に低下していた活動性と生活意欲の改善につながった。
医療対応の詳細
主病
大腿骨近位部骨折術後、高血圧、心房細動
対応内容
・高血圧および心房細動の継続的管理
・骨折後の生活機能低下と活動量の評価
・転倒リスクを踏まえた在宅生活支援
・訪問リハビリとの連携による歩行状態確認
・福祉用具導入および住環境調整の支援
・長女への状況共有と介護負担調整
医療処置
該当なし
支援のポイント
・骨折後に通院が難しくなった段階で、医療から離れないための訪問診療導入を検討する
・身体機能低下だけでなく、転倒への恐怖や自信喪失も支援課題として捉える
・訪問リハビリと連携し、歩行状態、転倒リスク、活動量を継続的に評価する
・福祉用具や住環境整備を通じて、安全に動ける生活環境を整える
・本人に対しては、動かないことの安全ではなく、安全に動くことの重要性を繰り返し共有する
・家族支援では、付き添い負担や生活負担が一人に偏らないよう調整する
考察
本症例は、大腿骨近位部骨折術後に身体機能が低下し、通院困難を契機に医療から離れていくリスクが高まっていた事例である。骨折後の在宅支援では、歩行能力の低下そのものに加えて、転倒への恐怖や自信喪失による活動性低下が生活機能をさらに悪化させることがある。
訪問診療を導入することで、慢性疾患管理を継続しながら、自宅環境の中で生活再建に必要な課題を把握し、多職種と連携した支援が可能となった。ケアマネジャーにとっては、骨折後の支援を単なる運動機能低下として捉えるのではなく、本人の生活意欲や自己効力感の低下も含めて支える視点が重要である。本事例は、身体機能低下と自信喪失の双方に寄り添うことで、在宅生活継続につながった症例である。
付記情報
・診療科:内科、整形外科
・病態・症状:その他
・世帯構成:独居