在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/06/01
膵がん患者に対し、疼痛管理と早期の関係構築を目的に訪問診療を導入した事例
要点サマリー
膵がんによるがん性疼痛を有し、抗がん剤治療を継続していた男性に対し、病状進行前から訪問診療を導入した事例である。本人は治療継続を希望しつつも、最終的には自宅で過ごしたい意向を持っていたが、家族には訪問診療に対して終末期のみの医療という印象があり、導入への抵抗感があった。在宅医療では疼痛管理、不安軽減、療養方針の共有を行い、病状進行後も混乱なく在宅療養へ移行できる体制を整えた。ケアマネジャーにとっては、症状悪化後に支援を開始するのではなく、本人と家族が十分に話し合える時期から支援導線を整える視点が重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:72歳・男性
居住地:名古屋市瑞穂区
世帯構成:夫婦のみ
キーパーソン:妻(同居)
保険・福祉情報
医療保険:医療保険利用
介護保険:記載なし
診断名
・膵がん
・がん性疼痛
導入の背景
膵がんに対して抗がん剤治療を継続していた。診断当初から本人は病状について十分理解しており、治療は続けたいが、最終的には家で過ごしたいという希望を持っていた。
一方で、妻と長女は訪問診療に対して、もう治療ができない人の医療という印象を強く持っており、まだ歩けている段階で家で診てもらう必要があるのかという抵抗感を抱えていた。
しかし実際には、徐々に倦怠感や食欲低下が進行し、病院までの移動や待ち時間による疲労感も強くなっていた。外来受診翌日はほぼ横になって過ごす状態となり、通院自体が生活の質を下げる要因となっていた。
また、疼痛コントロールについても、どのタイミングで薬を増やすべきか、夜間に痛みが強い時はどうすればよいかなど、家族の不安が大きくなっていた。病院側から、動けなくなってから急いで在宅へ切り替えるよりも、早めに在宅医療チームと関係を作っておくほうが安心であると説明され、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、疼痛の程度、食欲低下、倦怠感の変化を継続的に確認しながら、在宅での症状管理を行った。訪問看護と連携し、オピオイド調整時には副作用の有無も含めて細かく情報共有を行い、疼痛悪化時には早期に対応できる体制を整えた。
また、病状進行を見越して、介護保険申請、介護ベッド導入、ポータブルトイレの検討、今後必要となるサービスの整理を、困ってからではなく早期段階から進めた。
家族に対しては、在宅療養は家族だけで全てを担うものではなく、多職種で支える医療であることを繰り返し説明し、不安を言語化できる場を設けた。比較的安定している時期から関係構築ができたことで、病状進行後も本人、家族ともに大きな混乱なく在宅療養へ移行することができた。本人からは、何かあった時にすぐ相談できるだけで安心感が違うとの言葉が聞かれた。
医療対応の詳細
主病
膵がん、がん性疼痛
対応内容
・疼痛の継続的評価とオピオイド調整
・食欲低下、倦怠感の経過観察
・疼痛悪化時の早期相談および対応体制の整備
・訪問看護との連携による副作用確認
・今後の療養場所や支援方針に関する意思確認
・家族への説明と不安軽減支援
医療処置
オピオイド管理
支援のポイント
・病状が大きく悪化してからではなく、本人と家族が十分に話し合える段階で訪問診療導入を検討する
・訪問診療を終末期のみの医療としてではなく、今の生活を支える医療として位置づけて説明する
・疼痛や倦怠感など日常生活に影響する症状を早期から在宅で管理する
・介護保険申請や福祉用具導入などを、必要が顕在化する前から準備する
・家族が在宅療養を家族だけで担うものと誤解しないよう、多職種支援体制を具体的に共有する
・不安を表出できる場を継続的に確保し、看取りへの恐怖感や療養場所への迷いを整理する
考察
本症例は、膵がんに対する治療を継続しながらも、将来的な在宅療養を見据えて早期に訪問診療を導入した事例である。症状が大きく悪化してから在宅移行を急ぐ場合、本人も家族も十分に準備できず、混乱や不安が強まりやすい。
本事例では、体調が比較的安定している時期から関係構築を行い、疼痛管理、サービス調整、療養方針の共有を段階的に進めたことで、病状進行後も本人主体の療養継続が可能となった。ケアマネジャーにとっては、在宅療養を最終段階だけの支援と捉えず、これから先を一緒に考える支援として早期から介入することが重要である。家族の認識変容を支えることも、在宅移行を円滑にする重要な支援要素となる。
付記情報
・診療科:内科、緩和ケア科
・病態・症状:膵がん、がん性疼痛、倦怠感、食欲低下
・世帯構成:夫婦のみ