在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/06/01
筋萎縮性側索硬化症の進行に伴い意思伝達支援とACPを目的に訪問診療を導入した事例
要点サマリー
筋萎縮性側索硬化症により四肢筋力低下と構音障害が進行し、会話による意思疎通が困難となってきた男性に対し、身体管理に加えて意思伝達手段の確保とACP支援を目的として訪問診療を導入した事例である。本人は病状を理解したうえで、できるだけ自宅で過ごしたいという希望を持っていたが、妻は今後さらに意思表示が難しくなった際に本人の気持ちが分からなくなることへ強い不安を抱えていた。在宅医療では病状管理に加え、文字盤や意思伝達装置の導入支援、多職種連携によるコミュニケーション支援、将来的な療養方針の共有を進めた。ケアマネジャーにとっては、ALSでは身体管理のみでなく、本人が意思表示できる時期に支援体制と意思決定支援を整える視点が重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:68歳・男性
居住地:名古屋市昭和区
世帯構成:夫婦のみ
キーパーソン:妻(同居)
保険・福祉情報
医療保険:医療保険利用
介護保険:要介護5
診断名
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)
導入の背景
ALS診断から数年が経過し、四肢筋力低下と構音障害が進行していた。病状進行に伴い会話による意思疎通が困難となり、家族とのやり取りにも時間を要するようになっていた。
本人は病気について十分理解しており、できるだけ自宅で過ごしたいという希望を持っていた。一方で、妻は何かあった時に本人の気持ちが分からなくなるのではないかという不安を強く抱えていた。
また、呼吸機能低下も徐々に進行しており、今後の療養方針について早期から話し合う必要性が高まっていた。このため、身体管理のみでなく、コミュニケーション手段確保とACP支援を目的として訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、全身状態と呼吸状態の継続的評価を行いながら、病状進行に応じた在宅療養支援を進めた。
あわせて、訪問看護、リハビリ職、福祉用具事業所と連携し、文字盤や意思伝達装置の導入支援を行った。本人が自分の意思を伝えられる環境を整えることで、家族とのコミュニケーションが安定し、療養生活における本人主体の意思決定がしやすくなった。
さらに、将来的な人工呼吸器導入希望や療養場所について、本人と家族で繰り返し話し合いを行った。意思伝達手段が整備されたことで、本人の希望を家族が理解しやすくなり、病状進行後も本人主体の療養選択につながった。
医療対応の詳細
主病
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
対応内容
・全身状態および呼吸機能低下の継続的評価
・構音障害進行に伴うコミュニケーション課題の把握
・文字盤および意思伝達装置導入に向けた多職種連携
・本人および家族に対するACP支援
・将来的な人工呼吸器導入希望や療養場所に関する意思確認
医療処置
該当なし
支援のポイント
・ALSでは身体症状の進行と並行して、意思伝達手段の確保を早期に進める
・本人が意思表示できる時期に、療養方針や医療選択について繰り返し話し合う
・コミュニケーション支援は医療のみで完結せず、訪問看護、リハビリ職、福祉用具事業所と連携して整備する
・家族の不安は身体介護だけでなく、本人の意思が分からなくなることにも向くため、その不安に対する支援を行う
・ケアマネジャーは、福祉用具調整とACP支援を並行して進め、病状進行後も本人主体の療養が継続できる導線を設計する
考察
本症例は、ALSにおいて身体機能低下そのものだけでなく、意思伝達困難の進行が在宅療養継続の大きな課題となることを示す事例である。本人が病状を理解し、自宅で過ごしたいという希望を持っていても、意思表示手段が失われれば、その希望を支援につなげることが難しくなる。
訪問診療は、身体管理に加えて、本人が意思表示できる時期にACPを進め、意思伝達手段を整備する支援の起点となる。ケアマネジャーにとっては、ALSでは介護量の増加だけでなく、コミュニケーション支援と将来の療養選択支援を早期から組み込むことが重要であり、それが本人主体の在宅療養継続につながる。
付記情報
・診療科:内科、神経内科
・病態・症状:筋萎縮性側索硬化症、四肢筋力低下、構音障害、呼吸機能低下、意思伝達困難
・世帯構成:夫婦のみ