在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/03/31
受診拒否により外来介入が困難な抑うつ症状患者に対し、家族支援を軸に在宅療養体制を構築した訪問診療導入事例
要点サマリー
抑うつ症状が疑われるものの精神科受診を拒否し、外来での診断や治療導入が困難であった高齢女性に対し、訪問診療を導入した事例である。意欲低下、食欲不振、不眠により生活機能の低下がみられ、同居する夫の介護負担も増大していた。訪問診療では、身体疾患の除外を含めた全身状態の評価を行いながら、本人の拒否感を強めない関わりを優先し、在宅での関係構築を進めた。ケアマネジャーにとっては、診断確定前であっても生活上の支障を起点に医療介入を検討し、家族負担の軽減と支援方針の整理を並行して進める視点が重要である。
基本情報
82歳、女性である。
居住地は記載なしである。
夫婦同居で生活している。
キーパーソンは別居の次男である。
保険・福祉情報
医療保険は後期高齢者医療保険1割負担である。
介護保険は要支援2である。
診断名
・うつ病疑い(診断未確定)
導入の背景
以前より意欲低下、食欲不振、不眠など、抑うつ症状を疑う状態が持続していた。生活全般の活動性が低下し、日常生活上の支障がみられていたが、本人は外来受診を強く拒否しており、精神科的評価や治療導入が進まない状況であった。
同居する夫が日常生活を支えていたものの、本人の状態が長期化する中で介護負担が増大し、夫自身の疲弊も懸念されていた。診断確定の有無にかかわらず、まず在宅で全身状態を確認し、生活支障に対して医療的に関与できる体制が必要であったことから、別居する次男を家族調整の窓口として、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、まず身体疾患の除外を含めた全身状態の評価を行い、意欲低下や食欲不振、不眠の背景に身体的要因がないかを確認した。そのうえで、本人の拒否感を強めないよう、精神科受診や治療導入を前提に押し進めるのではなく、在宅での関係構築を優先した。
あわせて、夫に対して現在の状態の捉え方や関わり方について説明を行い、介護負担が過度に集中しないよう支援の視点を共有した。必要に応じて介護サービス導入も視野に入れながら、次男を通じて家族内で支援方針を整理した。結果として、本人が自宅で安心して過ごせる環境調整と、家族が無理なく関われる療養体制の整備が進んだ。
医療対応の詳細
主病
主病は抑うつ症状を呈する状態であり、うつ病が疑われていたが、診断は未確定であった。外来受診拒否が強く、診断確定や治療導入よりも先に、在宅での評価と関係構築が必要な状況であった。
対応内容
・全身状態を確認し、身体疾患の鑑別を行う
・抑うつ症状の経過観察を継続する
・受診拒否を踏まえ、段階的に医療介入を進める
・本人の拒否感を強めない関わりを意識し、在宅での関係構築を優先する
・夫に対して状況説明を行い、介護負担軽減の視点で支援する
・次男を通じて家族内の支援方針を共有する
医療処置
該当なし
支援のポイント
・診断確定前であっても、意欲低下、食欲不振、不眠など生活上の支障が続いている場合は医療介入を検討する
・受診拒否を非協力と捉えず、本人が受け入れやすい関わり方を優先する
・精神科受診を急がせるのではなく、まず在宅で状態評価と関係構築を行う
・夫婦同居であっても、支援が一方に集中していないかを確認し、配偶者の疲弊を早期に把握する
・別居家族をキーパーソンとして位置づけ、家族内の連絡窓口と支援方針の整理を行う
・ケアマネジャーは、医療導入とあわせて介護サービスの必要性を再評価し、家族負担軽減につながる支援導線を設計する
考察
本症例は、抑うつ症状が疑われる状態であっても、外来受診が成立しないことで医療介入が遅れやすいことを示す事例である。とくに高齢者では、精神症状そのものだけでなく、食欲低下、不眠、活動性低下といった生活機能の変化として現れることがあり、診断名の有無だけで支援開始の可否を判断しない視点が重要である。
本事例では、訪問診療により、本人の拒否感を最小限にしながら全身状態の確認と関係構築を進めることができた。また、同居する夫の負担に着目し、別居の次男を含めた家族支援体制を整えたことで、在宅療養継続の基盤づくりにつながった。ケアマネジャーにとっては、本人の生活が崩れ始めている段階で家族の負担状況も含めて捉え、診断確定前から多職種連携を開始することが重要である。
付記情報
・診療科:内科、精神科
・病態・症状:意欲低下、食欲不振、不眠、受診拒否、抑うつ症状
・世帯構成:夫婦のみ