在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/25
在宅復帰後の全身状態安定を目的に訪問診療を導入した絞扼性イレウス術後の事例
要点サマリー
絞扼性イレウス術後に敗血症や薬疹、感染症を合併し、全身状態が不安定となった高齢男性に対し、退院後の在宅療養を支える目的で訪問診療を導入した。点滴不要の状態まで回復した一方、認知症や廃用の影響もあり、体調変動への早期対応と家族支援を重視した在宅フォローを行った。
基本情報
年齢・性別:87歳・男性
居住地:名古屋市守山区
家族構成:本人・長男・嫁の三人暮らし(キーパーソンは嫁、妻は他界、次男は市外在住)
保険・福祉情報
後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護3
診断名
絞扼性イレウス
肺アスペルギルス症疑い
認知症
廃用症候群
導入の背景
2021年10月下旬より側腹部痛と嘔吐が出現し、症状増悪のためA病院へ救急搬送された。開腹下にてイレウス解除術を施行し、腸切除は行われなかったが、術後に敗血症性ショックを合併した。加療により全身状態は徐々に改善したものの、リハビリ経過中に肺アスペルギルス症疑いおよび薬疹を伴う多形紅斑が出現した。
一時的に胃管管理を要したが、退院前には抜去され、食事摂取は日によるばらつきがあるものの点滴は不要な状態となった。呼吸器症状は落ち着いており、退院後は自宅での療養を希望されたため、状態変動への対応と在宅支援を目的に訪問診療導入となった。
介入内容と経過
退院後は訪問診療を開始し、全身状態・食事摂取状況・皮疹の経過を中心に定期的な診察を実施した。薬疹に対してはステロイド内服を継続し、掻痒感や皮膚状態の変化を観察した。
食事量に日内差があるため、脱水や再入院リスクを念頭に、家族への観察ポイントの共有を行った。呼吸状態は安定しており、咳・痰・呼吸困難は認めていない。認知症および廃用の影響からADLは低下しており、介護負担を考慮しながら在宅療養を継続している。
医療対応の詳細
主病:絞扼性イレウス術後
合併症・既往:敗血症性ショック、真菌感染、肺炎、認知症、廃用症候群、薬疹
対応方針:退院後の全身状態安定を目的とした経過観察と症状管理を中心とし、急変時に早期対応できる体制を構築
医療処置:点滴なし、内服調整および皮膚・全身状態の管理
支援のポイント
退院直後の不安定期を在宅で支える医療介入
術後合併症を複数抱えた状態での退院であり、訪問診療による継続的な状態確認が安心感につながった。
家族介護を前提とした情報共有
キーパーソンである嫁に対し、食事量低下や皮膚変化などの観察ポイントを具体的に共有した。
医療と生活のバランスを重視した在宅支援
過度な医療介入を避けつつ、再入院を防ぐ視点で在宅フォローを実施した。
考察
本事例は、急性期病院での治療を終えた後も全身状態の不安定さが残る高齢患者に対し、訪問診療が「退院後の受け皿」として機能したケースである。
特に、認知症や廃用症候群を背景に持つ患者では、医療的安定だけでなく、家族が在宅療養を継続できるかどうかが重要な判断軸となる。
在宅医療は、積極的治療だけでなく「生活の再構築」を支える役割を担っており、退院後早期からの介入が、結果として在宅生活の継続と家族の安心につながることを示している。
付記情報
診療科:内科、消化器外科、その他
病態・症状:その他
世帯構成:親子