コラム2024/07/09
認知症患者とのコミュニケーション方法:バリデーションの基本と具体例
認知症患者とのコミュニケーション方法として広く認知されている「バリデーション」は、認知症の方々と接する際に、どのようにして彼らの世界に寄り添い、尊重し、より良い関係を築くことができるのかを探るための方法論です。
バリデーションとは?
バリデーション(Validation)は、認知症患者の感情や行動を否定せず、ありのままに受け入れることを基本としたコミュニケーション技法です。この方法は、アメリカのナオミ・フェイル(Naomi Feil)によって開発されました。バリデーションは、認知症患者が感じていることや思っていることを「正しい」と認め、共感することを通じて彼らの心の平安を取り戻す手助けをします。
バリデーションの目的
- 自己尊重の維持:認知症患者が自分自身の価値を感じ続けることができるよう支援します。
- 感情の表現:患者が自分の感情を自由に表現できる環境を提供します。
- ストレスの軽減:認知症患者の不安やストレスを軽減し、穏やかな状態を保つことを目指します。
- 関係の強化:患者と介護者との信頼関係を深め、より良いコミュニケーションを促進します。
バリデーションの基本原則
- 受容:患者の感情や言葉を否定せず、そのまま受け入れることが重要です。たとえば、患者が「今日は娘が来ると言っていた」と話す場合、現実と異なっていても、「そうなんですね。楽しみですね。」と応じることで、患者の感情に寄り添います。
- 共感:患者が何を感じているのかを理解し、その感情に共感を示します。例えば、患者が過去の思い出を話す場合、その話に耳を傾け、「それは素敵な思い出ですね。」と共感することで、患者の感情を認めます。
- 具体的な質問:患者が話す内容を具体的に掘り下げる質問をすることで、彼らの感情を引き出し、話を深めます。例えば、「その時はどんな気持ちでしたか?」などの質問を投げかけます。
- 身体言語:患者の感情に合わせた身体言語(微笑み、頷き、目を合わせるなど)を使うことで、非言語的なコミュニケーションを図ります。
バリデーションの具体的な実践例
例1:過去の話に寄り添う
状況:ある日、認知症患者のAさんが「私は今日、学校に行かなければならない」と言いました。Aさんは以前教師をしていた経験があります。
バリデーションの対応:
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- 介護者:「学校に行くのですね。今日は何を教える予定ですか?」
- Aさん:「今日は子供たちに算数を教えます。」
- 介護者:「算数の授業は楽しそうですね。どんな内容を教えるのか楽しみです。」
- Aさんは自分の話を聞いてもらえたことで安心し、穏やかな表情になりました。
例2:不安や混乱に対する共感
状況:Bさんが夕方になると「家に帰らなければ」と繰り返し言い始めます。実際にはBさんはすでに自分の家にいますが、認知症の影響で混乱しています。
バリデーションの対応:
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- 介護者:「家に帰りたいのですね。家が恋しい気持ち、よく分かります。家でどんなことをしたいですか?」
- Bさん:「庭を見たいんです。花がたくさん咲いていて…」
- 介護者:「素敵なお庭ですね。お庭の花を一緒に見に行きましょうか。」
- Bさんは落ち着きを取り戻し、庭を見に行くことで安心感を得ました。
例3:感情に寄り添う
状況:Cさんが突然涙を流し始め、「母が恋しい」と話します。Cさんの母親はすでに亡くなっていますが、Cさんはその事実を忘れています。
バリデーションの対応:
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- 介護者:「お母さんが恋しいのですね。お母さんはどんな方でしたか?」
- Cさん:「優しくて、いつも私のことを気にかけてくれました。」
- 介護者:「素敵なお母さんですね。たくさんの愛情を感じたのですね。」
- Cさんは母親の思い出を語ることで感情を整理し、少しずつ涙が収まりました。
バリデーションの効果
バリデーションを実践することで、認知症患者の行動が穏やかになることが多く報告されています。また、患者が自分自身の感情を理解し、表現することができるようになるため、介護者との関係もより良好になります。
バリデーションは、認知症患者とのコミュニケーションを改善し、彼らの生活の質を向上させるための重要な方法です。日々のケアに取り入れることで、患者との信頼関係を深め、穏やかな環境を提供することができるでしょう。