コラム2023/02/15
患者の意思決定で大切なこと
意思決定支援の本質
厚生労働省より意思決定支援のガイドラインは障碍者向け、認知症向けとパターン別にまとめられています。
しかし、どのような方が対象であれ、その本質は「意思決定の質を向上させること」であることを忘れてはいけません。
私たち専門職は自身の理解や経験から、ついつい「自分たちが良いと思う選択をさせる」支援をしてしまいがちです。
在宅療養移行、治療の選択や中断、主治医の変更、最期を過ごす場所の選択…。
様々な場面で選択を求められる本人、代理決定をする家族に選択肢を与え、十分な説明をすること、本人の人生観や価値観を十分に共有し本人にとっての最善の利益を考えて行う支援が私たちは行うべき意思決定支援と言えます。
意思決定に影響する要素
では、私たちは本人、家族とどのような理解の共有をしていく必要があるのでしょう。
生活状況や経済的な状況の理解を把握するのはそれほど困難ではありません。
しかし、中には簡易的な質問や説明では理解を共有することが難しいこともいくつかあります。
意思決定に大きく影響する要素で、相互理解を得るのに時間を要するものは以下の3つであると考えられます。
1.現在の病状と、予測される病状変化の軌道
2.患者の想いと家族の想い(※現在の本人意思が確認できない場合もある)
3.患者を取り巻く社会的事情(社会制度や地域資源など)
“best”が無理でも”better”な選択を
本人、家族と十分に話し合い、先ほど述べた要素について相互理解を得られたとしても、予測通りに病態が改善しなかったり、患者・家族の希望を叶えることができなかったり、地域資源が不足し本来提供できるはずの最適な医療やケアが提供できなかったりといった事態が生じることも考えられます。
そういった場合には、「病状改善はできないが、可能な限りの症状緩和ならできる」など、与えられた条件下において“より良い治療・ケアの方針”、”よりましな治療・ケアの方針”を目指すことが大切です。
本人(患者)を中心として、家族や携わる多職種が必要な医療やケアについて考え、チームとして最後まで伴走する姿勢で、根気よく、betterな選択を目指していきましょう。
余談 患者中心主義と顧客中心主義は違う
これまで意思決定支援についてお話をさせて頂きました。
余談として、治療方針に関する意思決定において、時折論じられる患者中心主義と顧客中心主義の医療との違いについてお話します。
当然のことながら我々は患者中心主義の医療を目指さなければなりません。
患者自身が感じている感覚や生活状況をきちんと把握し、医師が必要だと判断したケアを一人一人の患者に合わせて提供することが患者中心主義の医療提供と言えます。
それに対し、医師の判断を二の次にし、とにかく患者の意向を最優先にするのが顧客中心主義の医療提供です。
例えば、頭痛を理由にMRI検査の希望を訴える患者がいらっしゃるとします。
MRI検査が必要かどうかは病歴や診察による検査前確率などを考慮する必要がありますが、それを考えず提供するのは顧客中心主義の医療提供といえます。
それに対し、患者本人が何に不安を感じ、なぜ検査を希望するのかを聞き取り、丁寧な診察を実施し、検査前確率の低さを説明した後、今後どのような症状がある場合に受診が必要になるかのタイミングについて説明し納得して帰ってもらうのは患者中心主義の医療提供といえます。
説明が足りず十分な理解を得られていないと「あの先生は検査を希望したのにしてくれなかった」と不満を漏らすかもしれません。
この場合は、検査を行わなかったことが問題ではなく、診察を丁寧に行いすぎて時間が足りなくなり説明が不十分となってしまったことが問題だったのかもしれません。
まとめ
自身の価値観を押し付けるような支援とならないよう、フラットな気持ちで患者さんのお話を聞いて、相互理解ができるよう根気よく進めていきたいですね。