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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

介護・医療業界の人材不足問題  ~愛知県は採用が一番難しい県?~

コラム2019/08/07

介護・医療業界の人材不足問題 ~愛知県は採用が一番難しい県?~

介護・医療業界の人材不足問題~愛知県は採用が一番難しい県?~

7/26社会保障審議会・介護保険部会は、深刻さを極める人手不足への対応をテーマにディスカッションが行われ、厚生労働省が展開中の種々の施策を紹介したうえで、「残念ながら十分な成果は出ていない」、「かなり厳しい状況にある」との見解を示しました。
財政がさらに逼迫し、ニーズの急増と現役世代の急減が同時並行で進んでいく中、政府の舵取りの方向性に大きな注目が集まっています。
人材不足は介護業界の大きな課題であり、施設の経営者・管理者の方は頭を悩ませていることかと思います。今回は、介護不足の現状と対策を整理し、各地域での事例をご紹介させていただきます。

愛知県の介護職員の有効求人倍率は全国1位

介護職員の有効求人倍率は過去最高レベルにありますが、全産業と比較すると、2ポイント以上高く3.95倍となっています。また、全ての都道府県で2倍を超えており、4倍超に至っているところも少なくありません。最も高い愛知県は6.19倍です。

約9割の介護事業所が採用困難

公益財団法人 介護労働安定センターが発表した「平成29年度 介護労働実態調査結果について」によれば、介護人材が不足している理由の第一位は「採用が困難である」と示されています。次に採用が困難な理由を見ていきます。

同業他社・多業種との人材獲得競争

「募集すればひとが採れる」時代から、激変する採用マーケットの変化に対応した採用活動に転換することが求められています。工夫や努力を怠れば、すぐに同業他社、他産業に人材を奪われてしまいます。例えば、「教育制度をしっかり整備していない」、「採用活動に戦略がなく、抜けたら補充の体制をとっている」、「求職者に直接的にアプローチしていない」、「キャリアプランのしくみがない」などが挙げられます。

給与の低さ

「平成29年度介護労働実態調査」によれば、訪問看護員の月間平均給与は、いまだに20万円以下となっています。また、介護職員の平均給与は約21万円、全産業(「平成29年度賃金構造基本統計調査」)の平均月給は約30万ですので、全体の平均からみても低い水準であると言えます。

介護職へのネガティブなイメージ

いわゆる3K「きつい・きたない・きけん」という一般的なネガティブなイメージがあり、「体力的・精神的にきつい」といったことが人材採用を難しくしている側面があります。

人材不足への対策

そこで各自治体では、介護職員を確保・定着させるために事業所や職員への支援体制を整備しています。今回は日本全国の都道府県で行われている取り組みから、事例を2つご紹介します。

◆社会福祉法人あかね  http://www.e-akane.com/
「業界にイノベーションの風を吹き込む先駆者になる」というスローガンのもと、様々なユニークな取り組みを行っています。ケアマイスター制度では、従業員が資格取得のためのオリジナル試験を実施。これを段階的に合格していくことで、運営管理や外部講師として、他者に研修にいくなどしてキャリアアップだけでなく、活躍の場を外部に広げることも可能。
また、「地域の福祉」を実現するために、子どもたちへの介護体験イベントを開催、100人以上のこどもたちが、介護士、看護師の職業体験をしています。その他、定期な研修として、新人スタッフには個別のコーチングを付けて現場とのコミュニケーション強化を図るなど、新人教育にも力をいれて取り組んでいます。取り組みの結果、社員離職率を18%から4%まで改善し、パートスタッフの離職率も24%から14%へと改善を達成しました。

◆大阪堺市  https://www.city.sakai.lg.jp/
市内の介護人材の確保について課題を感じていた堺市では、実態を調査するために、各介護事業者の現場職員に対してアンケートを実施しました。アンケート内容は主に、仕事のやりがいやストレス、コミュニケーションなどについて聞くものでした。アンケートの結果をもとに「人材が定着しやすい組織、しにくい組織」の特徴を項目立てて「みえる化」し、広く公表し、PRしました。加えて、事業モデルとなる介護事業者による職場改善事例の共有会やワークショップなども実施しています。アンケートから辞めやすい理由が判明し、具体的な対策をたて、事例共有会では、「事例の内容から自らの職場で活用できる」と回答した事業者が9割を超え、改善に役立ているとのことです。

まとめ

今回は介護人材の不足をテーマにお話しさせていただきました。人材不足は、介護業界にとどまらず、医療においても、日本全体においても、大きな問題の一つです。2018年には6580万人だった就業者数が2040年には5650万人になります。うち、医療・福祉の就業者数は、2018年の823万人から2040年には1060万人になり、2040年には「5人に1人が、医療・福祉に従事することになる」と推計されています。就労人口が減っていく中で、医療・福祉の就業者数を増やしていくのはかなりハードルが高いことは否めませんが、経営により大きな影響を及ぼすことは、明白です。打開策として、ロボット、AI、ICTの活用によるデータヘルス改革、シニア人材・外国人の活用、組織マネジメント改革、経営の大規模化・協働化などが挙げられますが、どこに注力して、この問題を乗り越えていくかは、個々の医療・介護機関に委ねられています。当院としても、持続可能な医療を提供できるよう、様々な取り組みからこの問題を解決していきたいと考えています。