コラム2019/07/12
正しく知ろう!~摂食嚥下障害~
正しく知ろう!~摂食嚥下障害~
厚生労働省の発表では年間13万人以上が「肺炎」で亡くなっており、65歳以上では死因の第4位、80歳以上では第3位となっています。そして、高齢者が肺炎にかかる背景には「摂食嚥下障害」があり、医療・介護の現場では深刻な問題となっています。今回は高齢者の命にかかわる「摂食嚥下障害」を取り上げます。
高齢者の摂食嚥下障害は増えている
近年、食べ物や水分が摂れなくなり、亡くなる方が増えています。私どもの統計では在宅看取りのうち、3人に1人が摂食嚥下障害で亡くなっています。さらに、摂食嚥下障害に由来する「誤嚥性肺炎」で亡くなる方を含めると、じつに2人に1人の方が摂食嚥下障害によって命を落としていることになるのです。
摂食嚥下障害の原因
食べ物を食べられなくなる原因は大きく分けて二つあります。一つは、食べ物をかみ砕く、飲み込むといった食べる機能が衰えるケース。もう一つは、食べようという欲求そのものが低下してしまうケースです。実際はこれらの原因が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。摂食嚥下障害に陥った患者さんが再び食べられるようになるには、まずは原因を探り、それらを取り除くことが大切です
原因となる病気
●口の病気
歯や入れ歯などのトラブル、咽頭がん、喉頭がんなどのがん
●脳の病気
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、パーキンソン病とその関連疾患、神経変性疾患(筋萎縮性側索硬化症など)、認知症
●感染症
肺炎、胆のう炎、腎盂炎など
原因となる薬
利尿剤・鉄剤・抗生剤・抗癲癇薬・認知症治療薬・睡眠薬・精神安定剤・抗がん剤・痛み止めなど
原因となる環境
・病院(生活環境や給食)
・介助者による過介護
・食事を摂るときの姿勢の悪さ
・適切でない食事の温度・形態
・視力や聴力の低下
・快適でない部屋の温度や湿度
・腕や筋力の低下
・使いにくい食器や汁器
・味が合わない
・睡眠不足
・排尿や排便の機能低下
食べる機能が衰えるケース
喉の部分には空気を気管支や肺に送る「気道」と、食べ物を胃腸に送る「食道」の二つの通路がありますが、人間はこの二つが切り替え式になっており、食べる機能が衰えると食べ物が誤って気道の方に入ってしまう「誤嚥」を起こしやすくなります。誤嚥した場合、口の中のばい菌が食事に混じって肺に入ってしまい、肺炎を引き起こします。これが「誤嚥性肺炎」です。誤嚥を防ぐには自身の嚥下能力に合った大きさや硬さの食べ物を食べること。また、肺炎にかかるリスクを下げるためにも肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンなどの予防接種を受けることをおすすめします。
食べる意欲が低下するケース
高齢者の味覚は若年層に比べ鈍る傾向があります。食欲を引き出すにはスパイスなどで味にアクセントをつけたり塩分濃度を上げたりして患者さんの好みの味付けに近づけましょう。また種々の病気を併発している方は、いつの間にか大量の薬を飲まなくてはならない状況に陥っていることがあります。複数の薬を服用すると薬同士の相互作用によって副作用が出やすく、食欲をなくす原因にもなります。薬にも命に関わるものとそうでないものがあります。それらを判別するためにもかかりつけ医をつくり、できるだけ薬を減らしましょう。
あきらめる前に口から食べる工夫を
食の楽しみは人生の楽しみといっても過言ではありません。安易に胃ろうなどの手段に頼る前に、もう一度口から食べることにチャレンジしましょう。
飲み込む力は全身の機能に影響を及ぼします。日ごろの訓練で食べる能力を強化・維持することが健やかな生活につながります。
ちくさ病院では医師、言語聴覚士、作業療法士、栄養士、看護師など多職種が連携して「摂食嚥下支援チーム」を結成し、食事がしにくい方へのリハビリ訓練や「嚥下内視鏡」「嚥下造影」等の検査で個々の患者さんに適した食事形態、摂食方法を見つけるなど、安全に食事をしていただけるよう努めています。摂食嚥下機能向上の訓練において大きな役割を果たす言語聴覚士は4名、グループ全体では8名おり、万全の支援体制を整えています。