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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の基礎知識2021/11/10

パーキンソン病の基礎知識~“ウェアリング・オフ”を知ろう~

パーキンソン病の患者さんと関わったことのある方ならば“ウェアリング・オフ”、または“オン・オフ”という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

パーキンソン病の初期段階“ハネムーン期

通常、パーキンソン病の運動症状の改善を目指す際はレボドパやドパミンアゴニストなどのドパミン補填薬による薬治療を行います。

パーキンソン病の症状が現れてから3~5年は“ハネムーン期”と呼ばれ、レボドパなどの薬を飲むことで1日中安定した効果が期待できます。

 ハネムーン期の後に訪れる“ウェアリング・オフ”

ハネムーン期を過ぎると少しずつ薬の効果に不足を感じるようになってきます。

1日3~4回、十分な量のレボドパを服用していても効果の切れ目を感じるような状態になってきます。

このような状態を“ウェアリング・オフ”といい、その時の薬が効いた状態を“オン”、薬が切れた状態を“オフ”といいます。

“ウェアリング・オフ“と”ジスキネジア“

患者さんによっては、ウェアリング・オフが認められるようになった時期と同じころから身体が勝手にくねくねと動く症状が出るようになります。

これを”ジスキネジア“と呼びます。

初期の薬が一番効いているときに出現するジスキネジアをピークドーズ・ジスキネジア、病気が進行してきて薬の効きかけや切れかけのときに出現するジスキネジアをバイフェイジック・ジスキネジアもしくはダイフェイジック・ジスキネジアといいます。

ウェアリング・オフの進行と支障

ウェアリング・オフが軽いうちは少し動きづらさを感じる程度で日常生活に大きな支障はありません。

しかし、時間の経過とともにオフになったときの動作緩慢は強くなり動きづらさを強く感じるようになます。

また、そのような状態になってくるとオフが次第に予想しづらくなってきます。

オンの時はほぼすべて自分で何でもできていたのに、オフになると自分では動けなくなり、いつオフになるかもわからなくなってしまうため、近くに買い物などに出ても、ひょっとしたら動けなくなって帰って来られなくなるかもしれないなどの不安から外出ができなくなるなど、生活に大きな支障がでてしまいます。

 ウェアリング・オフのメカニズム

ウェアリング・オフやジスキネジアが出現するのはドパミン神経細胞の減少が原因となっています。

病気の初期のころにはドパミン神経が比較的残っているため、レボドパから作られたドパミンを貯蔵庫に保存して、必要に応じて使う事が出来ます。その後、進行してくるとドパミン神経が減ってしまい、ドパミンを十分に貯蔵庫に保存できなくなってしまいます。

このため、服薬の合間にドパミンを使い切ってしまい、欠乏状態が生じます。

これがウェアリング・オフのメカニズムです。

また、このようなドパミン神経が減ってしまった状態で十分に薬を効かせようとすると、常に十分に薬が行きわたるようにせざるを得ません。

そうなると、どうしてもレボドパの量はドパミン神経が処理できる能力を超えてしまいます。

あふれたレボドパはドパミン神経以外の細胞でドパミンに転換されるのですが、そこにはドパミンの貯蔵庫がありません。

その結果、そのままドパミンのオーバーフロー状態が生じてしまい勝手に作用するため、ジスキネジアが出現するようになってしまいます。

パーキンソン病の薬物療法のおさらい

最後に、パーキンソン病の薬物療法のおさらいをしておきます!

◎ドパミン系薬剤

・L-ドパ
パーキンソン病治療の中心となる薬剤。L-ドパは脳内で代謝されドパミンに変わり効果を発揮します。

効果の出現が早く、ほぼすべての患者に有効ですが、長時間使用を続けると運動合併症がでる可能性があります。

・ドパミンアゴニスト
ドパミン受容体作動薬ともいわれています。脳内でドパミンと同じようにドパミン受容体に結合し効果を発揮します。

L-ドパと比べると運動合併症を生じにくい反面、それぞれのドパミンアゴニストに使用上の注意があるため、患者ごとに使い分けられています。徐放材や、貼付材もあり、より安定した効果が期待できるようになっています。

◎非ドパミン系薬剤

・MAO-B阻害薬
ドパミンを脳内に長く留まらせる

・COMT阻害薬
脳の中へ移行するL-ドパを増加させる

・アマンタジン
脳内のドパミン神経からのドパミン分泌を促進します

・抗コリン薬
ドパミン減少に伴って相対的に過剰になるアセチルコリン(もう一つの伝達物質)を抑えて、両者のバランスをとる

・ドロキシドパ
減少しているノルアドレナリンを補充します

・ゾニサミド
運動合併症(ウェアリングオフ)を改善する

・アデノシン受容体拮抗薬
ドパミンと反対の作用をするアデノシンを抑えることでドパミンとのバランスを回復します。

まとめ

昨今のパーキンソン病患者の増加に伴い、ちくさ病院でもひと月あたり5~10人程度の訪問診療での新規介入のご相談を頂いています。

身近な疾患となってきているからこそ、少しでも疾患に対する理解を深められるように今後も定期的に情報発信をしていけるよう努めてまいります。

“こんな情報が欲しい”、“こんな疑問がある!”などご意見、ご要望がございましたら、在宅医療推進部 杉山までメールにてご意見をお待ちしております。

在宅医療推進部 杉山

a.sugiyama@chikusa.or.jp