症例紹介 在宅医療2021/11/04
【褥瘡治療の在宅症例】介護抵抗が強く易怒性や暴言のある患者様のケース
利用者及び家族の状況
利用者 85歳 男性 妻同居 週末を中心に長女の支援あり
主病
褥瘡(仙骨部)、糖尿病、認知症
当院介入開始までの経過
21年7月15日、訪問看護を通じて相談あり。
褥瘡悪化と7月頭からの排尿状況悪化。具体的にはバルーンカテーテルを入れたが上手く管理ができていない状況であった。
ADLはほぼ寝たきりで家族介助下であっても通院は困難な状況となっているため、訪問診療を導入し、褥瘡治療およびその他全身状態の管理をお願いしたいと相談があった。
相談員面談
同日、相談員が訪問し家族や訪問看護から聞き取り。
7月5日にカテーテルを入れたが、自己抜去はないとのこと。
7月6日ごろ発熱があり、近医に連絡をしたら膀胱炎になっていると言われレボフロキサシンとカロナールを処方された。
服用したら熱は下がった。
緊急性がある状況ではないが、家族は「早く医師に来てもらいたい」という希望が強くあるため、褥瘡写真を撮影し、できるだけ早く訪問できるよう調整する旨を伝え退室。
訪問診療開始後の経過
7月16日 初回診察
本人のキャラクター等について
認知症に伴う易怒性や暴言、介護抵抗があり、体の向きを変えるだけでも大声をだして嫌がる様子をみせる。
意思疎通は良好。初診時HDS-R:7/30点(3つの言葉の遅延再生ヒントなしでは回答できず、回答ありで2/3正解)
介護抵抗がみられるため、メマリーを開始した。
糖尿病は内服にてコントロール中。
年齢やADLを考慮し、あまりタイトすぎるコントロールではなく低血糖にならないような治療を目標とする。
褥瘡について(21年7月16日時点)
仙骨部に7.5×4.0㎝の褥瘡あり。
深さは不明、21年7月17日から14日間の特別指示書を訪問看護ステーションに対して発行。
指示内容:洗浄後プロペト塗布(患部 仙骨部褥瘡、陰部のびらんへ)+ガーゼ保護
褥瘡の深度はこの時点では不明であり次回2週間後に評価することとした。(以下、創部写真)
21年7月31日 2回目の訪問
仙骨部褥瘡:黄色壊死組織がハート型に有り。
十字型に切開施行。
21年7月31日から14日間の特別指示書を訪問看護ステーションに対して引き続き発行。
指示内容:洗浄後プロペト塗布(患部 仙骨部褥瘡、陰部のびらんへ)+ガーゼ保護
(以下、創部写真)
21年8月6日 3回目の訪問
黄色壊死組織に対してデブリードマン施行。
サワシリン3日分処方。
仙骨部褥瘡に対して特別指示書を継続。
指示内容:洗浄後ゲーベン塗布(仙骨部褥瘡へ)+ガーゼ保護
プロペトは引き続き処方(以下、創部写真)
21年8月21日 4回目の訪問
仙骨部褥瘡について、創部は縮小しているも感染兆候あり。臭いもあり。
引き続き処置が必要と評価。
黒色壊死に対して再度デブリードマン施行。
サワシリン3日分処方。
仙骨部褥瘡に対して特別指示書発行継続
指示内容:洗浄後ゲーベン塗布(仙骨部褥瘡へ)+ガーゼ保護
(以下、創部写真)
21年9月3日 5回目の訪問
暴言が激しく処置時に殴りかかる場面があったが、処置可能であった→メマリーを5㎎増量。
仙骨部褥瘡は改善傾向のため、前回同様の処置を継続の方針。
仙骨部褥瘡に対して特別指示書発行継続
指示内容:洗浄後ゲーベン塗布(仙骨部褥瘡へ)+ガーゼ保護
21年9月17日 6回目の訪問
メマリー有効で少し穏やかになったと家族より報告あり。
仙骨部褥瘡は改善傾向。
浸出液も少なく、ガーゼ交換は1日1回で済んでいるとご家族より報告あり。
経過良好の為、同様の処置を継続の方針。
仙骨部褥瘡に対して特別指示書発行継続
指示内容:洗浄後ゲーベン塗布(仙骨部褥瘡へ)+ガーゼ保護
(以下、創部写真)
21年10月1日 7回目の訪問
メマリー著効でバルーン交換時に少し抵抗があるも暴言はほぼなくなった。
仙骨部褥瘡もかなり縮小し1.5×1.5 cm程度。
同一体位を長時間続けることを避けるよう改めて指導。
仙骨部褥瘡に対して特別指示書発行継続
指示内容:洗浄後ゲーベン塗布(仙骨部褥瘡へ)+ガーゼ保護
(以下、創部写真)
21年10月15日 8回目の訪問
DMもかなり改善し、栄養状態も改善あり。
仙骨部褥瘡改善傾向で1.0×1.0 cm程度。
プロペトを引き続き処方。
仙骨部褥瘡に対して特別指示書発行継続
指示内容:洗浄後ゲーベン塗布(仙骨部褥瘡へ)+ガーゼ保護
(以下、創部写真)
21年10月23日 訪問看護より報告
褥瘡は創縁の縮小も進みサイズも7~10mm と縮小。
浸出液の増加もなく落ち着いているとのこと。
報告の数日前には9-3時方向に1cm程度のポケット形成あり10/22には0-3時方向に1cm程度のポケットがみられるとの報告があったが周辺の感染徴候はなし。
現在も当院にて訪問継続中である。
以上。
結果
本人のキャラクターと向き合いながら、状態に応じての創部への処置、あわせて栄養状態の改善にも努めた。
結果、本来の穏やかな本人のキャラクターを取り戻しつつあり、褥瘡の状態も1.0 cm 以下の大きさまで改善。
DMや栄養状態も改善傾向となっている。
家族も患者本人の体の状態が改善するだけでなく、易怒性もなくなったことで介護がしやすくなり、在宅生活が安定してきている。
都度の的確な創部の評価と治療方針の選択で改善方向へと進めた事例。