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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

2021/09/28

もし、突然倒れたら……? 身近な病気「てんかん」

子どもの病気と思われがちなてんかん。

しかし実際は、大人になってからでも発症し、高齢者のてんかんも増えてきました。

どんな病気なのか、自分や身近な人が突然発作で倒れたらどうすればよいのか、誰もが知っておきたい知識について、ご紹介させていただきます。

誰にでも起こり得る脳の病気

てんかんとは、発作を繰り返す脳の慢性疾患で、年齢・性別に関係なく誰にでも起こる可能性のある病気です。

小児で発症することが最も多いものの、成人でも発症することがあり、最近は高齢になって発症するてんかんが増加しています。

国内の患者数は約100万人と推計されています

てんかん発作は、脳の神経細胞に過剰な電流が流れて、その結果、脳からの情報が一時的に停止したり混乱したりすることによって起こります。

多くは数分以内におさまります。

てんかんにはさまざまなタイプがありますが、大きく「部分てんかん」と「全般てんかん」に分けられます。

「部分てんかん」は、特定の部位に限って脳波の異常が見られ、全年齢で発症する可能性があるてんかんです。

「全般てんかん」は、脳の広い領域にまたがる脳波異常が現れるもので、小児期に発症することが多く、成人期になると軽快することもあります。

てんかん発症の原因は、脳血管の病気や外傷など明らかな場合もあれば、はっきりした原因が見つからない場合もあります。

てんかん発作にも、電気的興奮の起こった場所や広がりによってさまざまな種類があります。

さまざまなてんかん発作

高齢者のてんかん発作は、けいれんが比較的少なく、短時間の意識障害と口をもぐもぐするような動作が見られることが多いため、認知症やうつ病などと間違われ、てんかんの診断が遅れることが少なくありません。

また、失神(血圧低下や、必要な酸素や糖の不足などによる意識の消失)やけいれんが見られる他の病気をてんかんと見誤ってしまうこともあります。

脳血管疾患やアルツハイマー病などは、てんかんを合併していることも多く、互いに深く関連している可能性が高いので、判別が難しいこともあります。

気になる症状があったときは、早めに専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが大切です。

成人のてんかんは、脳神経外科、神経内科、精神科が担当しており、小児てんかんは小児科、小児神経科が診療しています。

てんかんの診断は?

てんかん診断の基本は問診です。

どんなときに発作が起こるか、どんな症状が出るのか、持続時間はどのくらいか、などを詳しく医師に伝えましょう。

本人に発作の記憶がないことも多いため、家族など発作時に居合わせた身近な人が携帯電話の録画機能などを使って発作の様子を記録しておくと、診察時にとても役立ちます。

てんかんの6割は薬でコントロール可能

てんかんの治療の中心は、抗てんかん薬による薬物療法です。

適切な薬で6割以上の人は発作をコントロールすることができると言われています。

現在日本では20種類以上の抗てんかん薬が使われており、てんかん発作のタイプや薬に対する反応、副作用の出方などによってその人に合う薬を選択します。

眠気、ふらつき、発疹などのアレルギー反応、脱毛、食欲低下などさまざまな副作用が見られることもあり、副作用をできるだけ少なくしながら発作をコントロールできる最適な薬の種類と量が決まるまで、ある程度の期間を要することもあります。

薬は自己判断でやめたりせず、指示通りにきちんと服用することが大切です。

一部の小児てんかんは、一定の年齢になると自然に発作が消失する場合があり、そうした場合は薬をやめることができます。

しかし、基本的には高血圧などの慢性疾患と同様に、薬を飲み続けて良い状態を維持するもの、と考えるほうがよいでしょう。

薬でコントロールが難しいの場合は?

薬だけではコントロールが難しい難治性てんかんも、2割程度存在します。

このうち1割は、外科手術(開頭手術)が効果的な可能性があります。

手術をするかどうかは、発作を起こす場所が脳の一部に限局されていて、後遺症を残す心配が少ないことなど、慎重に検討して判断します。

また、「迷走神経刺激療法」という補助治療が行われることもあります。

電気刺激を出す医療機器を皮下に埋め込んで迷走神経を刺激することにより、てんかんの発作の回数を減らしたり、発作の程度を軽くしたりする方法です。

完全に発作を抑えることはできませんが、約半数の人で発作の頻度や強度が50%程度に抑えられるとされており(※)、生活の質の改善が期待できる選択肢の一つです。

発作をコントロールして充実した生活を

てんかんがあるからといって、幸せな人生をあきらめる必要はありません。

以下の3つの注意を守れば、充実した生活を送ることが可能です。

1.指示通りに薬をきちんと飲む(勝手に増減したりやめたりしない)

2.睡眠をしっかりとる(睡眠不足はてんかん発作を起こしやすくする)

3.アルコールをやめる(アルコールは脳に直接作用する)

ストレスを軽減し、健康的な生活を送ることが大切なのは、他の人と変わりありません。

また、仕事も、パイロットや公共交通機関の運転手など厳しい条件が設けられている場合もありますが、適性と資質があれば、ほとんどどんな仕事にも就業が可能です。

日常の通勤などでの自動車の運転は、過去2年以上発作がなく、今後も当面発作を起こす恐れがないと医師から判断された場合は可能です(数年後に臨時適性検査が必要)。

てんかんがあっても、適切な治療でコントロールを続け、運転免許を取得し、社会で活躍している人は数多くいます。

女性の場合、妊娠・出産も可能です。

ただし、抗てんかん薬が妊娠のためのホルモンに影響することもあります。

将来、妊娠を望む女性は、早い段階から主治医に相談し、計画的な妊娠を考えておくのが望ましいでしょう。

抗てんかん薬の服用により、生まれる子どもに先天性心疾患、口唇口蓋裂、二分脊椎などの発生率が高くなる可能性もありますが、妊娠前から1日0.4mg程度の葉酸を摂取することでリスクを下げられることがわかっています。

主治医の先生や産婦人科の先生の指示に従って対応しましょう。

最小限の抗てんかん薬を服用しながら、健康な子どもを出産している人はたくさんいます。

目の前の人にてんかん発作が起きたら・・

てんかん発作が起きている人を目の前にすると、驚いて慌てる人が多くいます。

しかし、てんかん発作は通常、数分程度と短時間であること、大きな発作では発作がおさまった後にもうろうとした状態になる場合があることなどを知って、落ち着いて対応したいものです。

てんかんと判断ができないとき、けいれんが5分以上止まらないとき、明らかな外傷があるときなどは、救急車を呼びましょう。

・けいれんを伴うてんかん発作が起きた場合

通常は数分以内に発作がおさまり、その後10〜20分以内に意識が回復することが多いので、てんかんだとわかっているときは冷静に様子を見守りましょう。

1.頭の下にやわらかいものを敷き、危険物を遠ざける

2.本人のメガネは外し、ネクタイやボタンなど衣類を緩める

3.時間を見る(5分以上続く場合は救急車を呼ぶ)

4.けいれんがおさまったら体を横向きにして唾液をティッシュで拭く

※発作中に口の中に指や物を入れたり、押さえつけたりしてはいけません。

・けいれんのないてんかん発作が起きたら

宙を見つめる、返事があいまいで目的なく動き回るなどの発作に出合ったら、自然に終わるまでそばで見守り、周りの人に大丈夫だと説明しましょう。

1.押さえつけず、危険なものや場所からそっと遠ざける(無理に行動を抑制しようとすると、それに反応して興奮してしまうことがあるため、後ろからサポートするのがおすすめ)

2.意識が通常に戻ったら、安心できるように話しかける。完全に意識が戻るまでそばにいる

周囲の人にどこまでてんかんのことを話しておくかは、プライバシーにかかわることですので、本人の考え方次第です。発作がまだコントロールされていない方は、仕事中に発作が起こることもあるので、信頼できる人には話しておくほうが安心して生活できる場合もあります。

まとめ

てんかんは誰にでも起こり得る病気であり、治療の進歩によってコントロールできるようになってきていることを知っておきましょう。てんかんの人が不利な立場に陥らないよう、周囲の人も正しい知識を持って共に生活することが望まれます。