コラム2019/12/10
看護師の一人前の条件とは~答えは「なぜ?」の先にある~
看護師の一人前の条件とは~答えは「なぜ?」の先にある~
Aナーシングが看護職対象(130人)の調査結果によると、
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/anursing/report/201911/563053.html
一人前の看護師の条件として、もっとも多かった回答が「多職種と連携できるコミュニケーション能力がある」(83.1%)、「患者の全体状況を把握し、寄り添える」(80.8%)の2項目でした。その他、「1人で判断し看護技術を行える」(55.4%)、「患者が病院の外でもその人らしく暮らせるように支援できる」(54.6%)、「リーダーシップ能力があり、後輩の指導的役割を果たせる」(53.8%)というものが続きます。
この調査からピックアップしたいのは、8割以上の方が「コミュニケーション能力」と「寄り添うこと」が一人前の看護師として、必要条件と回答されていることです。
それを踏まえ、今回は、当院の相談員の大塚さんが、ある事例の中での学んだ「気づき」を例に「なぜを問うこと」、「寄り添う」というポイントでお伝えしていきたいと思います。
ニーズとは?ウォンツとの違いを知ろう
まずは、基本的なこととして、「ニーズ」と「ウォンツ」に分けて説明させていただきます。ビジネス用語として、営業やマーケティングといった職種の人間が、日常的によく使用する単語ですが、ニーズは「目的」、ウォンツは「手段」とここでは、簡単に定義させていただきます。例えば、「吐き気止めの薬が欲しい」はウォンツ。「吐き気がするから吐き気止めで症状を抑えたい」はニーズ。
知るべきは「ニーズ」
患者様や、利用者様によってはウォンツだけを発言し、ニーズの部分は発言しない場合も多くあります。その方をより理解するために知るべきは「ニーズ」であるということです。
さらに踏み込んだ「潜在ニーズ」を引き出す
いわゆる「懐に踏み込む営業職」や、「市場を捉えるマーケター」は、「顧客から潜在ニーズを引き出すスキル」が長けているといわれます。営業職は、「顧客自身も気づいていない潜在ニーズを探り当て、顧客に気付きを与え信頼を得る」、また、マーケターは「潜在ニーズにフォーカスし、ソリューションやプロダクトを作り、競合との差別化を図る」。つまり、潜在ニーズに立脚し、サービスや関係性を展開する、このことを「マーケットイン」といいます。
「吐き気止めが欲しい」、これは潜在ニーズ?
「吐き気止めが欲しい」ということを例に、「なぜ?」を繰り返し、潜在ニーズを理解してみます。
1.「吐き気止めが欲しい」「なぜ?」
2.「吐き気がするから吐き気止めで症状を抑えたい」「なぜ?」
3.「吐き気で夜起きてしまう。朝起きるのが辛い。」「なぜ?」
「夜もっと寝たい。ぐっすり眠りたい」⇒潜在ニーズ
潜在ニーズは「なぜ?」の先にある
このように、「夜もっと寝たい。ぐっすり眠りたい。」という潜在ニーズがあることがわかりました。さらに、「吐き気止めを出す」事以外にも、「食事内容の変更と生活習慣の見直し」「ベッドや枕の変更」など、最初のウォンツ以外にも潜在ニーズを満たす手段や選択肢が他にもある事がわかりますし、何よりも大切なのは「吐き気を止める事」は表層の求めている事だということがわかります。これを「ニーズの深掘り」などと言ったりします。潜在ニーズを引き出す質問、ニーズの深掘りをする質問は「なぜ?」です。シンプルに「なぜ?」と何度か繰り返すことで、本質的な潜在ニーズに迫ることが出来ます。
ではもう一つ例を挙げてみましょう。
1.「もっと訪看さんやヘルパーさんに来て欲しい」「なぜ?」
2.「自分の代わりに痰の吸引をして欲しい」「なぜ?」
3.「経管で栄養を入れた後に痰が多い、むせる」「なぜ?」
「ずっと見ていられない、介護負担を減らしたい」⇒潜在ニーズ
潜在ニーズを満たす手段⇒半固形化栄養剤の使用、ショートステイ・レスパイト入院などによる介護負担の軽減
この場では非常に簡単な例を二つご紹介してみましたが、実際に我々が日常の業務の中で見つけていかなければならない潜在ニーズはもっと顕在化するのが難しいものが多いと思われます。辿り着くためには繰り返しご説明したように「なぜ?」と質問をすることはもちろんですが、専門知識や経験値を元にした質問や仮説を立てることも必要でしょう。さらに踏み込んで捉えるためには、多職種のそれぞれの立場から得た情報を共有することによって、より多角的に患者さんを理解できます。
まとめ
今回は潜在ニーズを介護医療の現場に落とし込んで考えてみました。冒頭の調査のひとつに「どんな看護師が理想の看護師だと思いますか?」という質問で、一番回答が多かった人物は、「ナイチンゲール」でした。ナイチンゲールは「白衣の天使」とも呼ばれておりますが、実は優秀な数学者であり、統計学者でもありました。論理的思考で国を動かし、様々な社会課題を解決していきました。
当院のコアバリューの一つに「高い問題解決能力」があります。その価値を提供する前提として、目の前の患者様一人一人に真剣に向き合い、本質的な問題を理解することがまずは重要と考えています。つまり、解くべき問題をきちんと設定しましょうということです。さらに、他職種のそれぞれの立場や関係性から多角的にとらえ、関係者で共有することで、より深く患者さんを理解することができます。「なぜを問うこと」、「寄り添うこと」、スキル、マインドセット、ともに我々は大切であると考えています。今後も、個々のスキルアップのみならず、個人しっかりと支える組織体制の強化を図り、より高い次元の問題解決能力を有した病院となれるよう努めて参りたいと思います。