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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

健康寿命の延伸と社会保障費~フレイル健診の効果とは~

コラム2019/11/06

健康寿命の延伸と社会保障費~フレイル健診の効果とは~

健康寿命の延伸と社会保障費~フレイル健診の効果とは~

10月29日、加藤勝信厚生労働相は閣議後記者会見で、高齢者の身心に衰えが生じる「フレイル」の状態に陥るのを防ぐため、健診でのチェックに取り組む方針を表明しました。健康寿命を延ばし、介護が必要になる人を減らすことで、社会保障費を抑えることを狙っています。では実際に、そのような効果が期待できるのでしょうか。

フレイル健診とは

先日、当院のメールマガジンにて「フレイルとサルコペニア」について触れましたが、ここで再度、フレイルの定義を改めておさらいしておきましょう。フレイルとは日本語では「虚弱」、「老衰」、「脆弱」を意味します。健康状態と要介護状態の間の、年を取り、筋力や認知機能、社会とのつながりが低下した状態の事を指します。高齢者のフレイルは生活の質を落とすだけではなく、様々な合併症も引き起こす危険がありますが、早く介入して対策を行えば、元の健常な状態に戻る可能性があります。フレイル健診では、運動能力や栄養状態などを把握し、早期発見から指導や助言を行うことで改善を促します。

日本の健康寿命と平均寿命

では次に、今回のフレイル健診によって期待される健康寿命の延伸を考える上で、現在の日本の健康寿命と平均寿命をおさらいしておきましょう。平成28年の資料によると、男性の平均寿命は80.21歳、健康寿命は71.19歳。平均寿命と健康寿命の差は約9年です。女性の平均寿命は86.61歳、健康寿命は74.21歳。平均寿命と健康寿命の差は約12.4年です。この差が、要介護の平均的な期間となりますね。健康寿命を延伸することで、この差をなくし、介護が必要な年数を抑えることがフレイル健診に期待されている部分になります。

健康寿命の延伸と社会保障費の抑制はイコールか?

では、健康寿命の延伸と社会保障費を抑えることはイコールの関係なのでしょうか。実は一概にそうとは言えないのではないかという意見もあります。健康寿命の延伸によって、社会保障費を抑えるには「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」という条件が必要になり、健康寿命と平均寿命とが連動して延伸することにより、生涯費用の増加につながるという意見です(終末期にかかる費用が先送りされる一方、自立している期間にも費用がかかる為)。しかしながら、ある研究では、「compression of morbidityによる医療費・介護費への影響」と題して、要介護2以上で暮らす期間を不健康機関と考えて、これを10年間で現在より短縮させた場合に将来の医療費・介護費にどのような影響があるかをシミュレーションしており、短縮させるためには、1年あたり1%程度要介護発生率を低下させる必要があり、それが実現した場合には、10年累積で介護費が4兆5000億円、医療費が8000億円減少するという結果が出ています。

健康寿命の延伸の効果の捉え方

このように健康寿命の延伸が社会保障費に与える影響に関しての考え方には相反する意見が存在します。しかしながら、仮に長生きした分、生涯にかかる医療費が増えたとしても、健康寿命の延伸により就労が可能になり、そこから生み出される所得や所得税・社会保険料の増加、ボランティアなどによる社会への貢献などの効果が、増加した医療コスト分を上回るようであれば生涯費用の増加の問題はクリアされます。また寿命が伸びれば生涯医療費も増えるという単純な話ではなく、より健康に生きていれば長生きしても生涯医療費は安くなるという点は押さえておく必要がありますね。

まとめ

今回は、健康寿命と社会保障費に関しての考察をお届けしました。今後、超高齢化社会に突入する我が国では、医療・介護の体制を維持するために様々な取り組み、見直しが加速度的に行われていくことが予想されます。私たち、医療・介護従事者は利用者様、患者様の為にもそれらを正しく理解し、目まぐるしい変化に柔軟に対応していかなければなりません。ちくさ病院は、こういった発信を通じ、課題抽出と問題解決をみなさまと共に考えていく医療機関でありたいと考えています。