コラム2020/04/22
最期の点滴は有害?~在宅看取りを考える~
最期の点滴は有害?~在宅看取りを考える~
当院のメルマガでもたびたびお話していることではありますが、これから数年間に、死亡する方は毎年120万人から160万人近くまで増加します。もちろん、そのほとんどは高齢者です。死は誰にとっても特別なことですが、必ず訪れます。独居や老々世帯も増えており、自宅では介護をする方がいないため、施設に入って亡くなる方も増えていますね。しかしながら、多くの方は、住み慣れた自宅で見慣れた環境の中で最期まで暮らしたいと考えています。
在宅医療とQOL
病院医療と在宅医療では目的が全く異なっていることは皆様もご理解いただけているところかと思います。病院医療の目的は当然ながら「病気を治すこと」です。一方、在宅医療の目的は「病気の人と家族のQOL(生活の質)を最大限上げること」と言えます。病院医療の目的である治療については、ある程度、指標に基づいて「定量化」することができ、病気が治ったかどうかは別として、ここまで回復したら退院という目安がつけられます。しかし、在宅医療が目安としているQOLにはさまざまな要素があります。
QOLは実のところ本人や家族にもよくわからないケースが数多く存在します。訪問診療、訪問看護を利用する場合、ガン末期、寝たきり(またはそれに近い状態)などで、患者さんの身体機能、自立度がかなり低下していて、多くの場合、自身では歩けません。「ガン末期で、自身で歩行もできない」、「歩けないし動けない、認知機能も低下して家族の事もわからない」例えばこのようなケースになったとき、「これこそがQOLだ!」とったガイドラインは存在しませんし、「似たようなケースの患者さんはこうだったから、きっとこの人もそのはずだ!」といった考えも通用しないでしょう。だからこそ、QOLとは何なのか。それぞれの現場で、本人、家族、在宅医療のチームで話し合うことで創り出していかなくてはなりません。
大切なことは、QOLは医者が判断するものではなく、本人が主体的に決めること、あるいは、家族が医師と話し合って決めていく必要があります。
大切なことは、QOLは医者が判断するものではなく、本人が主体的に決めること、あるいは、家族が医師と話し合って決めていく必要があります。
WHOが提唱する“ICF(国際機能分類)”という考え方
ICFは当人から生きる意欲を引き出すためには、何らかの具体的な目標が必要で、それを実現するために医療・介護がさまざまな工夫をするという考え方です。何も語らず、笑うこともせず、ただ厳しい顔をしている方にどう向き合うかは、介護者・医療者の覚悟が問われます。
ICFは生きる意欲を掻き立てることで、身体機能、認知機能を高めたり、維持しようとするものです。生きるためのモチベーションを維持するのは本人にとっても、家族や医療者にとっても非常に難しいことです。もちろん医師だけではできないですし、看護士、介護士、ケアマネなどがチームを作って一つのゴールにむかって進みます。
寝たきりに方の食欲を取り戻すことができなくても、できるだけ声をかけたり、会話をしたり、笑いかけたりして、心を引き立てることができますし、家族の心を支え、家族と良好な関係をつくることで大切なチームの一員としていくことも大切です。
在宅医療におけるQOLは「生活の質」ではなく、「人生の質」「いのちの質」として捉える方がしっくりくるように思います。本人を理解し、生き方、死に方に最後まで向き合って共に歩くこと。「言ってくれないからわからない」「困難ケース」とさじを投げるのではなく、「よき理解者」「頼りになるチーム」として、「私たちに任せて下さい。」と自信をもって言えなければ、信頼関係は構築できませんし、QOLの向上も困難となってしまいます。
寝たきりに方の食欲を取り戻すことができなくても、できるだけ声をかけたり、会話をしたり、笑いかけたりして、心を引き立てることができますし、家族の心を支え、家族と良好な関係をつくることで大切なチームの一員としていくことも大切です。
在宅医療におけるQOLは「生活の質」ではなく、「人生の質」「いのちの質」として捉える方がしっくりくるように思います。本人を理解し、生き方、死に方に最後まで向き合って共に歩くこと。「言ってくれないからわからない」「困難ケース」とさじを投げるのではなく、「よき理解者」「頼りになるチーム」として、「私たちに任せて下さい。」と自信をもって言えなければ、信頼関係は構築できませんし、QOLの向上も困難となってしまいます。
最期の点滴は“有害”
“表情は穏やかで、苦しんだ様子も感じられない最期”。そんな最期を迎えさせてあげたい。皆様もきっとそんな風に考えられている方が多いのではないでしょうか。「最期をどう迎えるのか」これがきっと在宅チームとしての最後のゴールになることが多いと思います。ここで、皆様に共通認識として共有をしておきたいのは、「点滴は有害になることもある」ということです。
ある在宅クリニックの医師は、死の間際の点滴は患者を「溺死させる」と言及し、「自然死とは『枯れること』」と表現しています。実際に、病院でも、臨終に近くなって大量の点滴をすることは禁忌ですし、WHOでもあえて「やってはいけない」と勧告を出しています。
この時期に点滴をすると、顔や足はぱんぱんにむくんでしまい、痰が気管を塞いで窒息しそうになるなど、かえって静かに亡くなるべき人を苦しめます。これでは「自然死」「尊厳死」とはほど遠い最期となってしまいます。
家族がそれを望むこともありますが、私たち在宅チームはこういったことを引き起こすことをチームの共通認識として共有しておく必要があります。そして、それを家族に十分に説明することが求められます。
ある在宅クリニックの医師は、死の間際の点滴は患者を「溺死させる」と言及し、「自然死とは『枯れること』」と表現しています。実際に、病院でも、臨終に近くなって大量の点滴をすることは禁忌ですし、WHOでもあえて「やってはいけない」と勧告を出しています。
この時期に点滴をすると、顔や足はぱんぱんにむくんでしまい、痰が気管を塞いで窒息しそうになるなど、かえって静かに亡くなるべき人を苦しめます。これでは「自然死」「尊厳死」とはほど遠い最期となってしまいます。
家族がそれを望むこともありますが、私たち在宅チームはこういったことを引き起こすことをチームの共通認識として共有しておく必要があります。そして、それを家族に十分に説明することが求められます。
訪問診療医はいつから入れるべきなのか
よくご質問を頂くのは、在宅看取りをご希望されている患者さんにいつから訪問診療を導入するべきなのかということです。可能な限り、訪問診療医は早めに決めてください。例えば、末期がんと診断されたら、まだ元気なうちに訪問診療をはじめても問題はありません。
医師、看護師、介護士との信頼関係ができないまま看取りの状態に入ることはお互いに辛いというのが本音です。もちろん、介入をご希望されればお断りをすることはありませんが、できるだけ早めに介入できていた方が望ましいということだけはご理解を頂きたい点です。
担当することになった医師と患者さんやご家族との相性が合わなかった場合、残された時間がなければ、医師を変えることも難しくなります。
医師、看護師、介護士との信頼関係ができないまま看取りの状態に入ることはお互いに辛いというのが本音です。もちろん、介入をご希望されればお断りをすることはありませんが、できるだけ早めに介入できていた方が望ましいということだけはご理解を頂きたい点です。
担当することになった医師と患者さんやご家族との相性が合わなかった場合、残された時間がなければ、医師を変えることも難しくなります。
まとめ
今回は在宅看取りのQOLに関してのお話をさせて頂きました。在宅看取りをしていくためには本人、ご家族のことを理解し、寄り添うことが求められます。QOLを向上させて、信頼関係を構築し、私たちが自信をもって「任せてください!」とお伝えすることで、安心して在宅看取りを選択できるご家庭も増えていくでしょう。今後も在宅看取りに関しての記事を定期的に配信していきますので、皆さまのご意見を頂ければ幸いです。