在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/10/02
家族を支える役割を担っていたパーキンソン病患者に対し、本人の在宅生活継続と家族支援を並行して進めた事例
要点サマリー
パーキンソン病を有する78歳女性に対し、動作緩慢や歩行不安定による通院困難と、家庭内で担っていた家事負担の増加を契機として訪問診療を導入した事例である。本人は次女と同居していたが、次女にも支援を必要とする事情があり、要介護状態にある本人が食事や洗濯など家庭生活を支える役割を担っていた。病状進行に伴い従来の役割を維持することが難しくなったため、訪問診療、訪問看護、介護サービス、別居する長女が連携し、本人が担ってきた家事を段階的に支援へ置き換える体制を整えた。ケアマネジャーにとっては、同居家族の有無だけで介護力を判断せず、患者本人が家庭内で担っている役割と、それを担えなくなった場合の生活への影響まで評価することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:78歳・女性
居住地:該当なし
世帯構成:親子
キーパーソン:長女(別居)
保険・福祉情報
介護保険:要介護2
身体障害者手帳:身体状況を評価しながら新規申請に向けて準備中
診断名
・パーキンソン病
・身体機能低下
導入の背景
パーキンソン病に対して外来通院を継続していたが、病状の進行に伴って動作緩慢や歩行時のふらつきが目立つようになり、外出に時間と介助を要するようになった。
公共交通機関の利用も負担となり、タクシーを利用する機会が増えたことで、通院に伴う経済的負担も大きくなっていた。
一方、本人は次女と同居していたものの、次女自身にも精神疾患があり、日常生活において本人を十分に支援できる状況ではなかった。むしろ、本人が食事の準備や洗濯など多くの家事を担い、次女の生活を支える側となっていた。
しかし、本人自身の身体機能が低下する中で、これまでと同じように家事を継続することが身体的な負担となり、転倒や体調悪化につながる可能性も高まっていた。
別居する長女からも、本人自身の生活を守ることを優先し、家庭内の役割を見直してほしいとの意向があった。
このため、外来通院の負担軽減を目的として訪問診療を導入するとともに、本人が担ってきた家庭内の役割を医療・介護サービスへ段階的に移行し、本人と次女双方の生活を支える体制を構築することとなった。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、パーキンソン病に伴う動作緩慢、歩行状態、立ち上がり動作、方向転換時のふらつきなどを継続的に評価した。
本人には「まだ自分でできることは自分でしたい」という思いがあり、家事や生活上の役割をすべて取り上げることには抵抗感がみられた。
そのため、一律に介助へ切り替えるのではなく、本人が安全に続けられることは残しながら、買い物や掃除など身体的負担や転倒リスクの高い部分を介護サービスへ移行する方針とした。
ケアマネジャーと現在のサービス内容を確認し、本人の身体状況だけでなく、次女を含めた世帯全体の生活が維持できるかという視点から支援内容を再検討した。
また、訪問看護との連携を進め、服薬状況、歩行状態、転倒リスク、食事、排泄、睡眠などを継続的に把握できる体制を整えた。
別居する長女については、日常的な介護を担うことを前提とせず、医療・介護職から本人と次女の生活状況を共有し、重要な判断やサービス調整の際に関わる役割とした。
さらに、パーキンソン病による身体機能低下の状況を踏まえ、身体障害者手帳の申請についても検討し、必要な時期に制度を利用できるよう準備を進めた。
医療対応の詳細
主病
パーキンソン病
対応内容
・パーキンソン病の症状および進行状況の評価
・内服状況および服薬時間の確認
・歩行、立ち上がり、方向転換時の状態確認
・転倒リスクの評価
・食事、排泄、睡眠など生活状況の確認
・本人が担っている家事負担の把握
・訪問看護、介護サービスとの情報共有
・身体機能を踏まえた身体障害者手帳申請の検討
・同居する次女の生活状況を踏まえた支援体制の調整
・別居する長女との情報共有
医療処置
該当なし
支援のポイント
・同居家族がいるという理由だけで、家庭に十分な介護力があると判断しない
・患者本人が家族を支える役割を担っていないかを確認する
・本人が担ってきた家事のうち、安全に継続できる部分と支援へ移行すべき部分を整理する
・本人の自立心を尊重し、すべてを代行するのではなく役割を残しながら負担を軽減する
・本人が家事を担えなくなった場合に、同居家族の生活へどのような影響が生じるかを予測する
・別居家族に日常介護を集中させず、情報共有や意思決定への参加など現実的な役割を設定する
・介護保険だけでなく、身体状況に応じて利用可能な他制度についても早期から検討する
考察
本症例は、訪問診療導入の背景に通院困難だけでなく、パーキンソン病の進行によって本人が家庭内で担ってきた役割を維持できなくなりつつあったという生活上の課題が存在した事例である。
在宅療養では、要介護状態の患者が必ずしも家族から支援を受ける側とは限らない。本症例のように、患者本人が同居家族の食事や家事を担い、家庭生活を支えている場合がある。そのため、患者本人だけを評価してサービスを導入しても、世帯全体の生活課題が解決しない可能性がある。
また、本人の自立心が強い場合、家事をすべてサービスへ置き換えることは、本人が大切にしてきた役割や生活の意味を失わせることにもつながり得る。そのため、安全性と身体的負担を評価しながら、本人が続けたいことは可能な範囲で残し、負担の大きい部分から段階的に支援へ移行することが重要である。
ケアマネジャーにとっては、ADLや要介護度だけでなく、「この人は家庭の中で誰を支え、何を担っているのか」「この人が動けなくなった場合、その役割を誰が担うのか」という視点が求められる。患者本人と同居家族を一つの生活単位として捉え、医療、介護、家族、必要に応じた福祉制度を組み合わせて支援体制を再構築することが、在宅生活の継続につながる。
付記情報
・診療科:内科、脳神経内科
・病態・症状:パーキンソン病
・世帯構成:親子