在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/09/28
生活上の変化を契機に訪問診療を導入し、独居認知症高齢者の在宅生活継続を支援した事例
要点サマリー
レビー小体型認知症を有する83歳独居女性に対し、服薬忘れ、食生活の乱れ、転倒など生活上の変化が目立つようになったことを契機として訪問診療を導入した事例である。かかりつけ医の閉院も重なり、通院継続と急変時の相談先確保が課題となっていた。在宅医療では、認知機能、服薬、栄養状態、転倒状況などを継続的に確認し、訪問看護やヘルパーと生活上の変化を共有できる体制を構築した。ケアマネジャーにとっては、独居認知症患者では通院困難が明確になる前から、食事、服薬、転倒などの生活変化を訪問診療導入のサインとして捉えることが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:83歳・女性
居住地:名古屋市中川区
世帯構成:独居
キーパーソン:長女(別居・春日井市在住)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割
介護保険:要介護2
診断名
・レビー小体型認知症
・高血圧症
・骨粗鬆症
・変形性膝関節症
導入の背景
物忘れが目立つようになり、専門外来でレビー小体型認知症と診断され、近隣医療機関へ定期通院しながら内服治療を継続していた。
しかし、認知機能低下の進行に伴い、受診予定を忘れる、薬を飲み忘れる、同じ物を繰り返し購入するなど、日常生活への影響が徐々にみられるようになった。
独居生活は継続していたものの、冷蔵庫には同じ食品や傷んだ食品が残され、賞味期限が切れた食品を処分することを拒む場面もあった。また、転倒によると思われる皮下出血がみられても本人に記憶がなく、転倒状況を把握することが難しいことも増えていた。
さらに、これまで診療を受けていたかかりつけ医が閉院することとなり、今後の定期的な医療管理と急変時の相談先を新たに確保する必要が生じた。
本人は施設入所を希望せず、可能な限り住み慣れた自宅で独居生活を続けたいという意向が強かった。別居する長女もその希望を尊重したいと考えていたため、認知症を含む健康状態の継続的な評価と通院負担軽減を目的として訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、認知機能、服薬状況、食事摂取量、栄養状態、転倒の有無などを継続的に確認した。
服薬については、一包化とカレンダー式薬ケースを活用し、本人が可能な範囲で自身の服薬を続けながら、訪問看護やヘルパーが状況を確認できる体制を整えた。
また、訪問看護やヘルパーと日常生活の情報を共有し、食事量の低下、食品管理の変化、転倒の増加など、診察時だけでは把握しにくい変化についても多職種で確認するようにした。
別居する長女についても、限られた訪問機会だけで本人の生活全体を把握する必要がなくなり、医療・介護職から得られる情報をもとに本人の状態を確認できるようになった。
本人は当初、訪問診療を必要以上の支援と捉える様子もみられたが、継続する中で自宅で診察を受けることへの抵抗感は軽減した。通院せずに医療へ相談できる環境が整い、本人が希望する独居生活の継続につながっている。
医療対応の詳細
主病
レビー小体型認知症
対応内容
・認知機能の継続的な評価
・服薬状況および飲み忘れの確認
・一包化、カレンダー式薬ケースを活用した服薬支援
・食事摂取量および栄養状態の確認
・転倒および皮下出血の有無の確認
・高血圧症など慢性疾患の管理
・訪問看護、ヘルパーとの生活状況の共有
・長女への病状説明および情報共有
・独居生活継続の可否を踏まえた生活状況の評価
医療処置
該当なし
支援のポイント
・認知症では、通院困難になる前から服薬、食事、買い物など生活上の変化を確認する
・本人の申告だけでなく、薬の残数や冷蔵庫内、転倒痕など客観的な情報も活用する
・独居患者では、訪問診療だけでなく訪問看護やヘルパーから日常生活の情報を集約する
・服薬管理はすべて代行するのではなく、本人ができる部分を残しながら支援方法を工夫する
・別居家族だけに見守りを依存せず、多職種で状態変化を共有する体制を整える
・かかりつけ医の閉院など、医療との接点が途切れるタイミングを訪問診療導入の機会として捉える
・本人の独居継続の希望を尊重しながら、認知機能や転倒状況の変化に応じて支援量を見直す
考察
本症例は、認知症によって完全に通院できなくなった段階ではなく、服薬、食事、買い物、転倒など日常生活の変化が目立ち始めた段階で訪問診療を導入した事例である。
独居認知症患者では、本人が生活できているように見えても、実際には服薬忘れや食品管理の乱れ、転倒などの小さな変化が積み重なっていることがある。こうした変化は、認知機能低下が生活機能へ影響し始めている重要なサインであり、医療・介護体制を見直す契機となる。
また、別居家族が定期的に訪問していても、日々の生活状況をすべて把握することは難しい。本症例では、訪問診療、訪問看護、ヘルパーがそれぞれの訪問時に得た情報を共有することで、長女だけに見守りを依存しない体制を構築した。
ケアマネジャーにとっては、「一人暮らしができているか」という結果だけで判断するのではなく、その生活がどの程度安定して維持できているかを具体的に確認することが重要である。本人の独居継続という希望を尊重しながら、生活上の小さな変化を早期に捉え、必要な支援を段階的に加えることが在宅生活継続につながる。
付記情報
・診療科:内科
・病態・症状:認知症
・世帯構成:独居