在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/08/18
費用への不安から訪問診療導入をためらっていた認知症高齢者に対し、制度活用と家族支援を組み合わせて在宅療養体制を構築した事例
要点サマリー
アルツハイマー型認知症が進行し、通院や服薬管理が困難となった86歳女性に対し、訪問診療を導入した事例である。同居家族はいるものの、長女夫婦は共働き、孫も通学しており、日中は本人が一人となる時間が長く、実際の介護負担は大きくなっていた。一方、家族には訪問診療に伴う費用への強い不安があったため、福祉給付金資格者証の取得可能性を確認し、手続きと並行して訪問診療を開始した。取得後は費用面の不安が軽減し、訪問看護やデイサービスとも連携しながら在宅療養を継続している。ケアマネジャーにとっては、同居人数だけで介護力を判断せず、家族の生活実態と経済的な課題を把握し、利用可能な制度も含めて支援を調整することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:86歳・女性
居住地:名古屋市中川区
世帯構成:親子
キーパーソン:長女(同居)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割
介護保険:要介護2
福祉制度:福祉給付金資格者証を取得
診断名
・アルツハイマー型認知症
・高血圧症
・脂質異常症
・骨粗鬆症
導入の背景
高血圧症や脂質異常症に対し、自宅近隣の医療機関へ通院していたが、徐々に物忘れが目立つようになった。同じ物を繰り返し購入する、火の消し忘れが増えるなど生活面にも変化がみられ、専門医によりアルツハイマー型認知症と診断された。
その後、認知機能低下が進み、服薬を自身で管理できない、受診日を忘れる、家族を探して外出する、同じ質問を繰り返すといった症状がみられるようになった。外来通院の継続が難しくなるとともに、長女の介護負担も増大していた。
本人は長女夫婦と孫と同居していたが、長女夫婦は共働きで、孫も日中は不在であるため、本人が一人で過ごす時間が長かった。家族が複数同居していても、実際に日中の見守りや介護を担える状況ではなかった。
ケアマネジャーから訪問診療を提案したものの、長女は毎月の医療費を継続的に負担できるか不安を感じていた。
このため、福祉給付金資格者証の取得可能性について医師へ相談し、認知機能や生活状況を踏まえて申請を検討することとなった。制度利用の可能性を確認しながら訪問診療を開始し、並行して手続きを進める方針について家族の理解が得られ、導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、認知機能の変化だけでなく、服薬状況、血圧、食事・水分摂取状況、転倒リスクなどを継続的に確認した。
認知症の進行に伴って本人自身による服薬管理が困難となっていたため、家族や関係職種と情報を共有しながら服薬状況を確認した。また、日中独居となる時間が長いことを踏まえ、脱水や転倒など生活上のリスクについても評価した。
訪問診療で把握した内容については、ケアマネジャーや訪問看護と共有し、医療と介護の双方で本人の状態変化を把握できる体制を整えた。訪問看護やデイサービスとも連携し、家族だけに見守りや介護が集中しないよう支援した。
その後、福祉給付金資格者証の取得が認められ、家族が抱えていた費用面への不安も軽減した。長女からも、通院同行の負担がなくなり、体調について相談できることで精神的な負担が軽くなったとの話が聞かれた。
現在も多職種で情報共有を行いながら、本人の在宅生活を継続して支援している。
医療対応の詳細
主病
アルツハイマー型認知症
対応内容
・認知機能および日常生活への影響の継続的な評価
・服薬管理状況の確認
・高血圧症、脂質異常症などの慢性疾患管理
・食事、水分摂取状況の確認
・脱水および転倒リスクの評価
・家族への病状説明と介護負担の確認
・訪問看護、デイサービス、ケアマネジャーとの情報共有
・福祉制度利用を踏まえた在宅療養継続支援
医療処置
該当なし
支援のポイント
・同居家族の人数だけで介護力を判断せず、就労や通学状況を含めて実際に支援できる時間を確認する
・認知症の進行により服薬や通院が困難となった段階で、訪問診療への移行を検討する
・訪問診療の費用が導入の障壁となっている場合は、家族の不安を具体的に確認する
・利用可能な福祉制度がある場合は、関係機関と連携して早期に確認・申請を進める
・制度利用の手続きだけを待って医療介入が遅れないよう、病状や生活状況に応じて並行して支援を進める
・訪問看護やデイサービスを組み合わせ、家族だけに介護負担を集中させない
・医療側で把握した状態変化をケアマネジャーへ共有し、医療と介護の支援内容を調整する
考察
本症例は、認知症による通院困難だけでなく、家族の実際の介護力と訪問診療に対する費用面の不安が導入上の課題となった事例である。
同居家族が複数いる場合、一見すると十分な介護力があるように見えることがある。しかし、就労や通学によって日中不在であれば、本人が長時間一人で過ごすこともあり、「同居していること」と「実際に介護できること」は分けて評価する必要がある。
また、必要性を理解していても、費用への不安によって訪問診療の導入をためらう家族もいる。本症例では、その不安を本人・家族側の問題として扱うのではなく、利用可能な福祉制度を確認し、申請と医療介入を並行して進めることで、必要な支援の開始を遅らせずに済んだ。
ケアマネジャーにとっては、医療的必要性だけでサービス導入を判断するのではなく、家族の生活状況、介護負担、経済的な不安まで具体的に確認することが重要である。制度活用も含めて導入を妨げている要因を一つずつ整理することが、必要な在宅医療へつなげる支援となる。
付記情報
・診療科:内科
・病態・症状:認知症
・世帯構成:親子