在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/06/09
独居認知症高齢者に対し、服薬管理と生活破綻予防を目的に訪問診療を導入した事例
要点サマリー
アルツハイマー型認知症、高血圧、脂質異常症を有し、独居生活を続けていた高齢女性に対し、外来受診継続と服薬自己管理が困難となりつつあった段階で訪問診療を導入した事例である。物忘れの進行に伴い、通院忘れ、服薬重複、服薬中断、食品管理の乱れなど、生活が少しずつ破綻し始めている兆候がみられていた。在宅医療では、処方内容整理、一包化、服薬カレンダー導入、ヘルパーによる服薬確認を進め、生活環境全体を見ながら支援を行った。ケアマネジャーにとっては、認知症高齢者支援では症状そのものだけでなく、生活管理能力低下の初期サインを捉え、独居生活を維持するための支援導線を早期に整えることが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:83歳・女性
居住地:名古屋市北区
世帯構成:独居
キーパーソン:長女(別居・県外)
保険・福祉情報
医療保険:医療保険利用
介護保険:要介護2
診断名
・アルツハイマー型認知症
・高血圧
・脂質異常症
導入の背景
長年独居生活を継続しており、近隣住民との交流もあったため、これまでは大きな問題なく生活していた。しかし、ここ1〜2年で徐々に物忘れが目立つようになっていた。
当初は年齢相応の変化と考えられていたものの、通院日を忘れる、同じ薬を重複して服用する、逆に全く飲めていない日があるなど、服薬管理の乱れが増加していた。ケアマネジャー訪問時には、数か月前に処方された薬が未開封のまま大量に残っている状況も確認された。
また、冷蔵庫内には期限切れ食品が多く残り、同じ食材を何度も購入してしまう様子もみられていた。県外在住の長女からも、同じ話を繰り返すことが増えた、最近は受診したかどうかも分からなくなっているとの不安が寄せられていた。
本人はまだ一人で大丈夫と話していた一方で、病院の日を忘れそうで怖い、薬がよく分からなくなってきたと不安を口にする場面も増えていた。このため、認知症進行に伴う外来受診継続困難と服薬自己管理困難に対し、在宅で継続的に状態確認を行う体制が必要と判断され、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、認知症症状と全身状態を継続的に確認しながら、服薬管理の安定化を優先して支援した。ヘルパーによる服薬確認を開始し、訪問診療側では処方内容を整理したうえで、一包化調整や服薬カレンダー導入を行い、間違えない工夫を重視した。
また、認知機能低下に伴う生活リスクを早期に発見できるよう、ヘルパー、訪問看護、ケアマネジャー、訪問診療の間で細かな変化を共有する体制を整えた。転倒リスクについても確認し、福祉用具事業所と連携して手すり設置や生活動線整理を進めた。
その結果、定期的な訪問により服薬管理は安定し、血圧変動も改善した。本人から頻繁に聞かれていた、薬を飲んだか分からないという不安発言も減少し、県外在住の長女も継続的に状況共有を受けられることで安心感を持てるようになった。
医療対応の詳細
主病
アルツハイマー型認知症、高血圧、脂質異常症
対応内容
・認知症症状の経過観察
・高血圧および脂質異常症の継続的管理
・処方内容整理と一包化調整
・服薬カレンダー導入および服薬管理支援
・生活環境確認によるリスク把握
・多職種連携による生活支援体制整備
医療処置
該当なし
支援のポイント
・認知症高齢者では、通院忘れや服薬混乱を生活破綻の初期サインとして捉える
・独居であっても、すぐに施設移行とせず、今の生活を維持するための支援導線を早期に整える
・服薬支援では、正しく飲む努力を本人に求めるより、間違えない仕組みづくりを優先する
・ヘルパー、訪問看護、ケアマネジャー、訪問診療の間で小さな変化を共有し、生活リスクを早期に拾い上げる
・県外家族に対しても継続的な情報共有を行い、支援から切り離さない
・転倒予防や生活動線整理も含め、医療と生活支援を一体で考える
考察
本症例は、認知症そのものの進行だけでなく、服薬管理や食品管理の乱れといった生活破綻のサインが徐々に顕在化していた事例である。独居高齢者では、本人がまだ大丈夫と感じていても、生活管理能力の低下は医療継続や安全な生活の維持に直結する。
訪問診療を導入することで、病気の管理に加えて生活場面に入り込み、服薬管理の仕組み化や生活リスクの早期把握が可能となった。ケアマネジャーにとっては、独居認知症高齢者支援では、問題が明確に破綻してから動くのではなく、少しずつ崩れ始めている段階で支援を組み立てることが重要である。本事例は、施設入所を急ぐのではなく、現在の生活をできるだけ維持するための医療として訪問診療が機能した症例である。
付記情報
・診療科:内科
・病態・症状:認知症
・世帯構成:独居