在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/05/07
透析通院継続下でも在宅生活の破綻が進行していた患者に対し、褥瘡管理と全身状態フォローを目的に訪問診療を導入した事例
要点サマリー
慢性心不全、末期腎不全、肝硬変を有し、維持透析を継続していた高齢男性に対し、全身状態悪化と褥瘡形成を契機に訪問診療を導入した事例である。透析通院は継続できていたものの、食欲低下、活動量低下、再入院反復により在宅生活は不安定化していた。在宅医療では褥瘡管理、肝性脳症再発予防、栄養状態改善、慢性心不全管理を行い、透析継続と在宅生活維持の両立を支援した。ケアマネジャーにとっては、通院継続の有無だけで在宅安定を判断せず、生活全体の破綻サインを捉えて医療介入を検討する視点が重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:74歳・男性
居住地:名古屋市天白区
世帯構成:親子
キーパーソン:次男(同居)
保険・福祉情報
医療保険:生活保護(医療扶助)
介護保険:要介護3
診断名
・慢性心不全
・末期腎不全(維持透析中)
・肝硬変
・仙骨部褥瘡
導入の背景
糖尿病性腎症を背景に維持透析を導入され、週3回の透析通院を長期間継続していた。もともとは自宅内ADLも比較的保たれていたが、食欲低下と活動量低下が徐々に目立つようになり、転倒を契機に臥床時間が増加した。
その後、意識障害により救急搬送され、高アンモニア血症による肝性脳症と診断され入院となった。加療により改善したものの、退院後も短期間で再入院を繰り返しており、在宅生活の不安定化が明らかとなっていた。
主介護者である次男は就労しながら介護を担っていたが、医療知識への不安、排泄介助や褥瘡管理への負担、どの状態が危険なのか判断できないことによる精神的負担を強く抱えていた。本人はもともと人に頼ることを好まず、サービス利用にも消極的であったため、支援導入のタイミングが難しい状況であった。透析通院は継続できていたが、全身状態悪化と褥瘡形成を踏まえ、通院できていることのみでは在宅生活の安定は担保できないと判断され、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始時には、日中ほぼ臥床状態であり、仙骨部には深達性褥瘡を認めていた。医師、訪問看護、ケアマネジャーで連携し、褥瘡処置、栄養状態改善、肝性脳症再発予防、介護負担軽減を中心とした支援を開始した。
肝性脳症に対しては、内服調整と排便コントロールを行い、再発予防を図った。褥瘡については訪問看護と連携しながら創部管理を継続し、慢性心不全や全身状態についても定期的に評価した。
本人は当初サービス介入に拒否的であったが、透析を継続するために必要な支援であることを共有することで、徐々に受け入れが進んだ。次男に対しては、状態悪化時の観察ポイントや緊急時対応を繰り返し説明し、不安軽減を図った。現在も透析を継続しながら、在宅療養を維持している。
医療対応の詳細
主病
末期腎不全、肝硬変、慢性心不全
対応内容
・肝性脳症再発予防のための内服調整と排便コントロール
・褥瘡の創部評価と処置継続
・栄養状態管理
・透析医療機関との情報共有
・慢性心不全管理
・状態悪化時の早期対応体制の整備
医療処置
・維持透析
・褥瘡処置
支援のポイント
・透析通院が継続できていても、食欲低下、臥床傾向、再入院反復、褥瘡形成は在宅破綻のサインとして捉える
・本人に拒否感がある場合は、支援の目的を透析継続や生活維持と結びつけて共有する
・就労しながら介護を担う家族では、介護負担だけでなく医療的不安への支援も必要である
・透析医療機関、訪問看護、ケアマネジャー、訪問診療が同じ判断軸を持てるよう情報共有を継続する
・褥瘡、栄養、排泄、心不全管理を分断せず、生活全体の維持として一体的に支援する
考察
本事例は、透析という強い医療介入が継続されている一方で、生活全体は徐々に破綻へ向かっていた事例である。透析通院が成立していることは、必ずしも在宅生活が安定していることを意味しない。食欲低下、活動量低下、再入院の反復、褥瘡形成といった変化は、在宅支援強化の必要性を示す重要な兆候である。
ケアマネジャーにとっては、どの時点で医療介入を強化するか、どこまで本人意思を尊重するか、家族負担をどう支えるかの判断が難しい症例である。訪問診療は、疾患管理のみならず、在宅生活そのものの維持を支える役割を担うことで、医療と生活のギャップを埋めることができる。透析継続を軸に本人の納得を得ながら支援導入を進めた点も、実務上の重要な示唆となる。
付記情報
・診療科:内科
・病態・症状:末期腎不全、肝硬変、慢性心不全、肝性脳症、仙骨部褥瘡、低栄養、活動量低下
・世帯構成:親子