在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/01/27
不安症状と通院拒否が進行する認知症高齢者に対し、在宅での薬物調整と支援体制を再構築した事例
要点サマリー
アルツハイマー型認知症に加え、不安の増強による過呼吸発作や妄想が目立つ高齢女性に対し、通院継続が困難となった段階で訪問診療を導入した事例である。
主介護者である夫も高齢で支援に限界があり、在宅生活を継続するために、薬物調整を中心とした医療介入と精神科連携を視野に入れた支援体制を構築した。
基本情報
年齢・性別:86歳・女性
居住地:名古屋市千種区
家族構成:本人と夫の二人暮らし
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護1
診断名
・アルツハイマー型認知症
導入の背景
以前より不安感が強く、不安が高まると過呼吸を呈し、緊急搬送されるエピソードを繰り返していた。
過去には地域活動や友人との交流にも参加していたが、物忘れを自覚したことを契機に自信を喪失し、外出や集まりを避けるようになった。
相談時点では、週3回のヘルパー利用により日常生活の支援は行われていたものの、妄想や意味不明な言動・行動が増加し、主介護者である夫の負担が大きくなっていた。
施設入所も検討されたが、本人・夫ともに希望は乏しく、在宅継続を前提とした支援が求められた。
近医で薬物調整を行っていたが十分な改善はみられず、通院拒否も出現。
通院介助そのものが夫の負担となっていたため、訪問診療による薬の再調整と、必要に応じた精神科的支援を視野に入れた介入について、ケアマネジャーより相談があり導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療により、在宅での全身状態・精神状態の評価を継続しながら、薬物調整を行う体制を整えた。
通院を前提としないことで、本人の心理的負担を軽減し、不安増強による過呼吸発作の予防を図った。
また、ケアマネジャー・ヘルパーと情報共有を行い、日常生活上の変化や精神症状の推移を把握できる体制を構築した。
必要に応じて精神科医の関与を検討できるよう、医療側のバックアップ体制も整理した。
医療対応の詳細
主病:アルツハイマー型認知症
対応内容:
・不安症状や妄想に配慮した薬物調整
・過呼吸発作の再発予防を意識した経過観察
・精神状態の変動に対する早期対応
・介護者(夫)への状況説明と負担軽減の視点を持った診療
支援のポイント
・通院が困難になる前ではなく、「通院そのものが負担になった段階」での訪問診療導入
・不安・妄想といった精神症状を生活全体の問題として捉えた支援設計
・高齢の配偶者介護という背景を踏まえた介護負担軽減の視点
・精神科連携を視野に入れた柔軟な在宅医療体制
考察
本症例は、認知症そのものよりも「不安」「自信喪失」「通院拒否」が在宅生活継続の障壁となっていたケースである。
ケアマネジャーにとって重要なのは、症状の重さだけでなく、介護者の年齢・心理的余力・通院という行為自体の負担を総合的に評価する視点である。
訪問診療を導入することで、本人の不安を刺激する要因を減らし、医療・介護双方が落ち着いて関われる環境を整えることができた。
在宅医療は、身体疾患だけでなく、認知症に伴う精神的不安定さを「生活の問題」として支える役割を担っていることを示す事例である。
付記情報
・診療科:内科、精神科、その他
・病態・症状:認知症、その他
・世帯構成:夫婦のみ