在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/01/27
通院拒否と家族関係の悪化を背景に、信頼関係構築を重視して訪問診療を導入したアルツハイマー型認知症の事例
要点サマリー
アルツハイマー型認知症により通院拒否と被害妄想、攻撃性がみられ、家族関係が著しく緊張していた高齢男性の症例である。
訪問診療導入にあたっては、いきなり医療を押し込むのではなく、家族面談・役割分担の明確化・本人の納得形成を段階的に行った。
結果として、本人と医師との信頼関係が構築され、症状の安定と家族負担の軽減につながった事例である。
基本情報
年齢・性別:77歳・男性
居住地:名古屋市北区
家族構成:本人・長男・長男の妻の三人暮らし(妻は施設入所中、次男は県外)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護1
診断名
・アルツハイマー型認知症
導入の背景
住居は同一建物内であるが、本人は1階でほぼ独居に近い生活をしており、長男夫婦は2階部分で生活していた。
本人には長男の妻に対する被害妄想や暴言、攻撃性がみられ、家族は本人と直接関わることを避けるため、車庫から出入りする状況となっていた。
通院に対しても強い拒否があり、家族は心身ともに疲弊していた。
この状況を受け、長男からケアマネジャーへ相談があり、訪問診療の可能性について当院へ問い合わせが入った。
介入内容と経過
初期段階では、本人の状況が十分に把握できなかったため、まず長男との面談を実施した。
面談では以下の点を事前に合意した。
・診察時は必ず長男が同席すること
・訪問看護が既に介入しているため、内服管理は長男と訪問看護で担うこと
その後、本人との初回面談を実施した。
当初は訪問そのものを拒否していたが、生活の中にあった健康診断結果を話題にし、「まずは健康状態の確認」という位置づけで説明を行った結果、本人から訪問診療を受け入れる意思が示された。
書類作成についても、長男による代行に同意が得られた。
事前に担当医・相談員で十分な打ち合わせを行い、初診時は相談員も同席。
医師との対話を通じて、本人が生活上の悩みを語る場面もみられ、徐々に信頼関係が形成された。
医療対応の詳細
主病:アルツハイマー型認知症
対応内容:
・定期的な訪問診療による状態評価
・生活上の困りごとや不安への傾聴
・訪問看護・家族と連携した服薬管理
・拒否感や攻撃性を悪化させない関わり方の共有
支援のポイント
・本人への直接的な説得を避け、家族面談から段階的に導入した点
・「治療」ではなく「健康確認」という入口設定
・診察時の同席者を固定し、安心感を確保
・訪問看護と家族で役割分担を明確化
・初診時から多職種で関わり、拒否リスクを最小化
考察
本症例は、認知症による通院拒否や家族関係の悪化がみられる場合でも、導入プロセスを丁寧に設計することで訪問診療が成立しうることを示している。
ケアマネジャーにとって重要なのは、「本人が拒否している=導入不可」と判断するのではなく、
誰が、どの順序で、どの立場で関わるかを整理することである。
訪問診療は医療提供だけでなく、家族関係の緩衝材としても機能し得ることを示す事例である。
付記情報
・診療科:内科、その他
・病態・症状:認知症
・世帯構成:親子