在宅医療の事例紹介(個人宅)2026/01/21
頭部外傷後のADL低下と前立腺癌BSC方針下で在宅看取りを見据え訪問診療を導入した事例
要点サマリー
転倒による急性・慢性硬膜下血腫後にADLが大きく低下し、前立腺癌はBSC方針となった患者に対し、家族の「自宅で看たい」という強い希望を背景に訪問診療を導入した。
医療的介入を最小限にしつつ、意識レベル低下や摂取量減少といった終末期変化に備えた在宅療養体制を整備し、病棟療養から在宅への移行を支援したケースである。
基本情報
年齢・性別:78歳・男性
居住地:名古屋市千種区
家族構成:本人・妻の二人暮らし(キーパーソンは妻。長男は県外、次男は市外)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護4
診断名
・右急性硬膜下血腫
・慢性硬膜下血腫(穿頭術後)
・前立腺癌(肋骨・仙骨部転移あり、BSC方針)
・糖尿病
・脂質異常症
・白内障術後
導入の背景
転倒による頭部外傷を契機に急性硬膜下血腫を認め、その後歩行困難が進行し慢性硬膜下血腫に対して穿頭術が施行された。
リハビリ目的での転院後もADLは十分に回復せず、自主性の低下や経口摂取量の減少がみられるようになった。
一方、前立腺癌については本人・家族の話し合いの結果、積極的治療は行わずBSC方針となっていた。
病棟では日中の多くをベッド上で過ごし、点滴を併用した療養が中心となっていたが、意識レベルの低下が進行し、療養病棟への転棟が検討された。
しかし家族より「できる限り自宅で看たい」という希望が強く示され、自宅退院を前提とした調整が進められ、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療導入により、病棟中心の医療から在宅での見守り・緩和的支援へと療養環境を移行した。
点滴管理を含めた全身状態の把握、意識レベルや摂取状況の変化の確認を行い、急変時の対応方針についても家族と共有した。
医療的な延命処置を目的とせず、在宅で穏やかに過ごすことを重視した関わりを継続した。
医療対応の詳細
主病:硬膜下血腫術後、前立腺癌(転移あり)
対応方針:
・BSC方針を前提とした在宅療養支援
・意識レベル低下や摂取量減少に対する経過観察
・点滴管理を含めた最低限の医療介入
・急変時の対応方針を家族と共有
支援のポイント
・療養病棟ではなく在宅を選択した家族の意思を尊重
・手術後・がんBSCという複合的背景を整理したうえでの在宅移行支援
・医療依存度が高まりつつある段階で訪問診療を導入し、環境変化による負担を軽減
・妻をキーパーソンとした意思決定支援と情報共有
考察
本事例は、頭部外傷後のADL低下と進行癌BSCという二重の課題を抱える中で、「どこで最期を迎えるか」という選択が重要な意味を持ったケースである。
医療的に療養病棟が選択肢となる状況であっても、家族の希望と在宅支援体制が整えば、自宅療養は現実的な選択となり得る。
訪問診療は、治療を行うためだけでなく、**病院から在宅へ移行する際の“意思決定と環境調整を支える役割”**を担うことを示す症例である。
付記情報
・診療科:内科、脳神経外科、泌尿器科、その他
・病態・症状:がん、その他
・世帯構成:夫婦のみ