在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/25
重度間質性肺炎と在宅酸素療法下で、独居に近い環境でも在宅療養を選択した事例
要点サマリー
間質性肺炎による慢性呼吸不全で在宅酸素療法(HOT)を長期使用している患者に対し、独居に近い生活環境と高い医療依存度をふまえながら訪問診療を導入した症例である。
自宅退院が推奨されにくい医学的状況であったが、本人の強い在宅希望を起点に、多職種での見守り体制と医療的安全管理を組み合わせ、在宅療養を成立させた。
ケアマネにとっては、「実質独居」「遠方キーパーソン」「重度呼吸疾患」という条件下でも、支援設計次第で在宅移行が可能となる判断プロセスが示唆される事例である。
基本情報
年齢・性別:82歳・女性
居住地:名古屋市千種区
家族構成:本人と長男の二人暮らし
※長男は同居しているが引きこもり状態で疎遠なため、実質的には独居に近い生活
キーパーソン:甥(羽島市在住・遠方)
次男:海外在住
保険・福祉情報
後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護5
福祉給付金資格者証あり
診断名
・間質性肺炎(2018年より在宅酸素療法導入)
・縦隔気腫
・関節リウマチ
導入の背景
2018年より関節リウマチに対する治療(プレドニゾロン、ケアラム、シンポニー)を開始したが、間質性肺炎の増悪を認め、A病院へ紹介となった。
その後も間質性肺炎の急性増悪を繰り返し、内服調整、オレンシア注射、ステロイドパルス療法などを施行。2018年から在宅酸素療法(HOT)を導入した。
2021年10月下旬より入院。安静時はHOT2Lで呼吸状態は比較的安定していたが、労作時にはSpO₂が80%台前半まで低下し、3~4Lの酸素投与を要していた。
縦隔気腫は縮小傾向、関節症状は落ち着いていたが、呼吸状態と生活背景(一人暮らしに近い状況)から、医療側としては自宅退院は推奨しにくい状況であった。
しかし、ご本人の「どうしても自宅に帰りたい」という意向が非常に強く、息子への十分なインフォームド・コンセントを行ったうえで、訪問診療を導入し在宅療養へ移行する判断となった。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、在宅酸素療法を継続しながら、呼吸状態の変動を中心に定期的な医学的評価を実施。
独居に近い生活環境をふまえ、訪問看護との連携により日常的な体調変化の早期把握を重視した。
急性増悪時の対応方針や受診・入院判断についても事前に整理し、本人・関係者間で共有することで、在宅療養中の不安軽減を図った。
医療対応の詳細
主病:間質性肺炎
医療的課題:
・慢性呼吸不全
・労作時の著明な酸素飽和度低下
・在宅酸素療法(安静時2L、労作時3~4L)
対応方針:
・呼吸状態の安定維持と急性増悪の早期察知
・過度な医療介入を避けつつ、安全性を優先した在宅管理
・生活実態に即した医療支援設計
支援のポイント
・「同居=介護力あり」と見なさず、実質独居として支援設計を行った点
・遠方キーパーソンとの情報共有を意識し、判断の遅れを防ぐ体制を構築
・重度呼吸器疾患でも、訪問診療と訪問看護の連携により在宅療養が成立
・本人の意思を尊重しつつ、医療的リスクを可視化したうえでの在宅移行判断
考察
本症例は、医学的には自宅退院が勧めにくい重度間質性肺炎症例においても、本人の強い在宅希望と支援体制の再設計により在宅療養が成立し得ることを示している。
ケアマネジメントの視点では、
・名目上の同居家族と実際の介護力の乖離
・遠方キーパーソンとの関係性
・医療依存度の高さ
といった複合的な要素を整理し、「できない理由」ではなく「どうすれば成立するか」を検討することの重要性が示唆される。
訪問診療は、退院可否の最終手段ではなく、本人の生活選択を支える現実的な選択肢であることを再確認させる事例である。
付記情報
・診療科:内科、呼吸器内科、リウマチ科、その他
・病態・症状:COPD(類似病態としての慢性呼吸不全)、その他
・世帯構成:独居