在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/25
膀胱がん終末期において尿道皮膚ろう管理を在宅で行い自宅看取りに至った事例
要点サマリー
膀胱がん末期に多発転移と胸水貯留を伴う高齢女性に対し、BSC方針のもと訪問診療を導入した。尿道皮膚ろうという在宅では稀な医療処置を病院と連携して管理し、急性肺炎や呼吸苦に対しても在宅で緩和対応を実施。最終的に本人・家族の希望どおり自宅での看取りを実現した。ケアマネにとっては「高度医療処置があっても在宅移行は可能」「不安が強い場合の“入院併存可能な在宅”という設計」が重要な示唆となる症例である。
基本情報
年齢・性別:94歳・女性
居住地:名古屋市守山区
家族構成:本人と次女の二人暮らし(キーパーソンは次女、長女は名古屋市西区在住)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(3割負担)
介護保険:要介護3(3割負担)
診断名
・膀胱がん末期
・両肺多発転移性腫瘍
・胸水貯留
・不安定狭心症
導入の背景
膀胱がんの加療目的で入院していたが、肺・肝転移が判明し、治療方針はBSCへ移行となった。本人および家族より「可能であれば自宅で過ごしたい」との希望があり、在宅療養への切り替えを検討。
一方で、症状悪化時の不安が強く、「どうしても耐えられない場合は入院したい」という家族の意向もあったため、在宅療養を基本としつつ、必要時は入院対応可能な体制を前提に訪問診療を導入した。
介入内容と経過
退院後、訪問診療を開始。膀胱がん末期に伴い尿道皮膚ろうが造設されており、当院として在宅では初めての対応ケースであった。
退院前カンファレンスにて入院先主治医から在宅医へ交換手技の詳細な指示を受け、在宅での安全な管理が可能となった。以後、定期訪問にて状態観察と処置管理を継続。
在宅療養中に急性肺炎を発症したが、本人・家族ともに入院を希望されず、抗菌薬治療と酸素療法を在宅で実施。呼吸苦の増悪に対しては、緩和目的でモルヒネ持続皮下注を導入し、苦痛緩和を優先した。
その後、状態は徐々に低下し、ご家族に見守られながら自宅にて永眠された。
医療対応の詳細
対応方針:BSCを前提とした在宅緩和ケア
医療処置:
・尿道皮膚ろう管理および交換
・抗菌薬治療
・酸素療法
・モルヒネ持続皮下注による症状緩和
急性期対応よりも、苦痛緩和と安心感の提供を重視した医療設計とした。
支援のポイント
在宅では稀な医療処置への対応
尿道皮膚ろうという高度な処置について、病院との事前連携により在宅管理を実現した。
「在宅+入院可能」という選択肢の提示
在宅を基本としつつ、心理的安全性を確保するため、入院併用可能な設計としたことで家族の不安軽減につながった。
急変時も在宅で完結する緩和対応
肺炎や呼吸苦といった症状に対し、入院せず在宅で緩和的対応を行い、本人の希望を尊重した。
考察
本症例は、医療的に難易度の高い処置を伴う終末期であっても、病院と在宅医療が適切に連携することで在宅療養が成立することを示している。
また、「最初から完全在宅」ではなく、「不安時は入院できる」という選択肢を残すことで、結果的に在宅看取りにつながった点は、ケアマネジメント上も重要な示唆である。
在宅医療は“覚悟を迫る医療”ではなく、“選択肢を広げる医療”であることを再確認させる症例であった。
付記情報
・診療科:内科、緩和ケア科、その他
・病態・症状:がん、心不全、その他
・世帯構成:親子