在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/25
急性骨髄性白血病を背景に在宅での看取りを選択した高齢男性の事例
要点サマリー
急性骨髄性白血病を基礎疾患とし、胆嚢炎(胆嚢癌穿孔疑い)を合併した高齢男性に対し、延命治療を行わず在宅療養を選択した事例である。輸血や侵襲的治療を終了し、「自宅で最期を迎えたい」という本人の意思を尊重し、訪問診療を導入。医療的判断と意思決定支援を軸に、家族と連携しながら在宅での看取りを実現した。
基本情報
年齢・性別:91歳・男性
居住地:名古屋市千種区
家族構成:妻と同居。娘婿がキーパーソン
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:申請中(1割負担予定)
診断名
急性骨髄性白血病
胆嚢炎(胆嚢癌穿孔疑い)
慢性心不全
導入の背景
急性骨髄性白血病にて八事日赤病院血液内科へ通院中であった。経過中に右側腹部痛が出現し、精査の結果、胆嚢炎を認め、胆嚢癌の穿孔も疑われた。
白血病に伴う血小板減少による出血傾向があり、胆道出血から閉塞性黄疸を来している可能性が高いと判断された。
超高齢であること、著明な出血傾向、瘻孔形成を来している可能性を考慮すると、外科的治療や抗癌剤治療は困難であり、確定診断のための穿刺も適応外と判断された。このため、保存的治療を基本方針とし、入院中に行っていた輸血も退院後は実施しない方針となった。
経口摂取は可能な範囲で継続するが、摂取困難となった場合も、代替栄養を含む延命治療は行わない方針を本人・家族と共有。本人より「自宅で最期を迎えたい」という明確な希望があり、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
退院後、訪問診療を開始。症状緩和と全身状態の観察を中心とした診療を行い、急変時の対応方針についても家族と随時確認を行った。
胆道感染や心不全増悪のリスクを踏まえつつ、過度な検査や治療は行わず、生活の質を重視した関わりを継続した。
在宅療養期間中は、妻およびキーパーソンである娘婿と密に連絡を取りながら、本人の状態変化に応じた支援を行い、最終的には自宅にて穏やかに看取りとなった。
医療対応の詳細
主病:急性骨髄性白血病
合併症:胆嚢炎(胆嚢癌穿孔疑い)、慢性心不全
対応方針:
侵襲的治療・延命治療は行わず、症状緩和と生活の質を最優先とした在宅療養を支援。輸血は実施せず、経口摂取困難時も代替栄養は行わない方針とした。
支援のポイント
本人の意思を最優先とした方針決定
延命治療を行わず、「自宅で最期を迎える」という本人の希望を明確に支援方針に反映した。
医療的限界を踏まえた現実的な説明
治療困難な状況を丁寧に説明し、家族が納得したうえで在宅療養を選択できるよう支援した。
家族との連携による在宅看取り支援
妻および娘婿と密に情報共有を行い、不安を最小限に抑えながら在宅での看取りを実現した。
考察
本事例は、高度な専門治療が困難な状況において、「何をしないか」を含めた医療判断と意思決定支援が在宅医療の中核となることを示している。
在宅医療は治療の継続だけでなく、治療を終える判断を支え、本人の生き方を最後まで尊重する医療でもある。
ケアマネジャーにとっては、医療的限界と本人の価値観をどうつなぎ、家族の理解をどう支えるかが重要な視点となる症例である。
付記情報
診療科:内科、緩和ケア科
病態・症状:がん、心不全、その他
世帯構成:夫婦のみ