在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/25
肺扁平上皮癌に対し在宅看取りを選択した事例
要点サマリー
肺扁平上皮癌の進行により全身状態が悪化し、予後が限られた状況において、本人・家族の意向を尊重し在宅での看取りを選択した事例である。入院加療から訪問診療へ円滑に移行し、疼痛や苦痛の緩和を重視した支援を行うことで、自宅で穏やかな終末期を過ごす体制を整えた。
基本情報
年齢・性別:73歳・男性
居住地:名古屋市東区
家族構成:本人と内縁の妻の二人暮らし(キーパーソンは内縁の妻)
保険・福祉情報
前期高齢者医療保険(2割負担)
介護保険:要介護2
診断名
・肺扁平上皮癌
・尿路感染症後(敗血性ショック既往)
・癌性胸水(右)
導入の背景
A病院にて肺扁平上皮癌に対する化学療法を継続していたが、徐々に全身状態が悪化していた。
2021年11月初旬、尿路感染症による敗血性ショックを発症し、同院泌尿器科へ入院。抗菌薬治療により感染症は改善したものの、入院を契機にADLが大きく低下し、経口摂取が困難となった。
そのためPICCを留置し中心静脈栄養を開始。また、右胸に癌性胸水の貯留を認め、右胸膜炎の診断で胸腔ドレナージが実施された。
予後は1~2か月と説明され、内縁の妻と相談のうえ「自宅で最期を迎えたい」という意向が確認されたことから、2021年12月に退院し、訪問診療導入となった。
介入内容と経過
退院後は訪問診療を中心に、在宅での終末期支援を開始。
疼痛や呼吸苦などの症状緩和を重視し、本人の状態に応じて訪問頻度や対応内容を調整した。
内縁の妻と密に連携を取りながら、日々の変化に対応し、自宅での療養が継続できる体制を維持した。
医療対応の詳細
主病:肺扁平上皮癌
医療処置:中心静脈栄養管理、症状緩和を目的とした内服・点滴調整
対応方針:延命を目的とした治療は行わず、苦痛の軽減と生活の質を重視した在宅緩和ケアを実施
支援のポイント
・予後説明を踏まえたうえで、本人・家族の意思を最優先した在宅移行
・急性期治療から緩和ケアへの切り替えを、退院時点で明確に共有
・内縁関係という家族背景を踏まえ、キーパーソンとの信頼関係構築を重視
・医療処置の目的を「治療」ではなく「苦痛緩和」に置いた支援設計
考察
本事例は、がん終末期において「どこで最期を迎えるか」という選択に対し、本人・家族の意思を尊重した在宅医療介入が有効に機能したケースである。
訪問診療は単に医療行為を提供するだけでなく、人生の最終段階における意思決定と生活の場を支える役割を担っていることが示された。
付記情報
・診療科:内科、緩和ケア科、その他
・病態・症状:がん
・世帯構成:夫婦のみ(内縁関係)