在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/24
誤嚥性肺炎を反復する認知症高齢者が、経口中止・末梢点滴方針のもと在宅看取りに至った事例
要点サマリー
誤嚥性肺炎を短期間に繰り返し、経口摂取再開や胃瘻造設を行わない方針となった高齢認知症患者に対し、末梢静脈点滴を中心とした在宅療養へ移行した事例である。
医療的な延命処置は行わず、家族の「最期は顔の見える環境で過ごさせたい」という意向を尊重し、訪問診療を軸に在宅看取りを実現した。
基本情報
年齢・性別:男性
居住地:名古屋市東区
生活環境:退院前はグループホーム入居中。退院後は長女宅で療養
家族構成:長女・次女・三女あり。キーパーソンは長女
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(3割負担)
介護保険:要介護3(3割負担)
診断名
誤嚥性肺炎
認知症
関節リウマチ
導入の背景
数年前より認知症が進行し、グループホームに入居して生活していた。
誤嚥性肺炎により大学病院へ入院となり、短期間のうちに誤嚥性肺炎を反復。経口摂取の再開は再発リスクが極めて高いと判断された。
胃瘻や中心静脈栄養の造設については本人・家族ともに希望されず、末梢静脈点滴による栄養管理を継続する方針となった。
主治医より、末梢点滴のみでの予後は数か月程度と説明され、心肺停止時はDNRの方針が共有された。
コロナ禍により家族や孫と面会できない状況が続いていたことから、「最期は家族の顔が見える環境で過ごさせたい」との家族会議の結果、長女宅での在宅療養に切り替えることとなり、訪問診療が導入された。
介入内容と経過
退院後は長女宅にて在宅療養を開始。
経口摂取は行わず、末梢静脈点滴を中心とした支持療法を継続した。
既往に関節リウマチがあり、これまでプレドニゾロン8mgを内服していたため、点滴内にプレドニゾロン5mgを組み込み、急激な中止による影響を避けた。
訪問診療では全身状態の観察、苦痛症状の評価、家族への説明と精神的支援を継続。
介入から約2か月後、長女をはじめ家族に見守られながら、自宅にて穏やかに永眠された。
医療対応の詳細
対応方針は延命を目的とせず、苦痛の最小化と生活環境の安定を重視した在宅緩和ケアとした。
医療的介入は末梢静脈点滴管理を中心とし、侵襲的処置は行っていない。
DNR方針を含め、急変時対応についても事前に家族と十分に共有した。
支援のポイント
誤嚥性肺炎を反復する高齢認知症患者において、経口中止・非侵襲的方針を明確にしたうえで在宅移行を行った点が重要である。
医療的な選択肢を「やらない」と決めることは、家族にとって大きな心理的負担となるが、繰り返し説明と確認を行うことで、方針への納得と安心につながった。
グループホームから在宅への一時的な生活環境変更であっても、「最期の時間をどこで過ごすか」という価値判断を支えることが、訪問診療の重要な役割である。
考察
本事例は、誤嚥性肺炎を反復する高齢認知症患者において、「栄養方法」「延命処置」「看取りの場所」という判断を、家族とともに整理しながら在宅支援へつなげたケースである。
在宅看取りは、必ずしも長期療養を前提とするものではなく、「限られた時間をどう過ごすか」を支える選択肢でもある。
ケアマネジャーにとっては、医療的な限界を理解したうえで、家族の価値観と生活背景を調整する役割の重要性が改めて示される事例といえる。
付記情報
診療科:内科、緩和ケア科
病態・症状:誤嚥性肺炎、認知症、その他
世帯構成:その他(退院後、長女宅で療養)