在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/23
在宅での生活継続が困難となった高齢者に対し、家族同居下で訪問診療を導入した事例
要点サマリー
近医で訪問診療を受けていた超高齢の利用者が、転倒と入院を契機に全身状態が悪化し、寝たきり・摂食低下の状態となった。退院後の生活継続が困難となる中、家族同居という生活基盤を活かし、訪問診療を再構築。急性期対応後の生活期支援として、在宅療養への切り替えを行った事例である。
基本情報
年齢・性別:98歳・女性
居住地:名古屋市千種区
家族構成:本人と三女の二人暮らし(キーパーソンは同居の三女)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(3割負担)
介護保険:要介護2
診断名
・高血圧症
導入の背景
もともと近隣医療機関より訪問診療を受けていた利用者である。
2021年12月末に構音障害が出現し、A病院にてCT検査を実施したが、症状は速やかに改善し、明確な原因は特定されなかった。
その後、2022年1月中旬に自宅内で転倒し頭部外傷を受傷。B病院へ入院となった。
退院後は全身状態の低下が著明で、寝たきり状態となり、食事摂取量も大きく減少した。
家族による在宅介護は継続されていたものの、医療的な評価と継続的なフォローが必要な状態と判断され、当院へ訪問診療の依頼があり介入に至った。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、積極的な医療処置よりも全身状態の把握と生活状況の確認を中心に介入を行った。
食事摂取量や覚醒状況、褥瘡リスクなどを定期的に評価し、家族と情報を共有しながら無理のない療養環境を整備した。
同居する三女が主たる介護者であり、日常の変化を把握しやすい環境であったことから、状態変化時には速やかな連絡・対応が可能な体制を構築した。
医療対応の詳細
主病:高血圧症
医療対応の方針:
・侵襲的治療は行わず、全身状態の安定と生活維持を重視
・食事摂取量、意識レベル、感染兆候などの経過観察
・家族への状況説明と意思決定支援
支援のポイント
退院後の生活を見据えた訪問診療への切り替え
入院による一時的な回復ではなく、退院後の生活を前提に医療体制を再構築した。
家族同居という生活資源の活用
同居家族がいる強みを活かし、医療と生活の情報共有を密に行った。
医療介入を最小限にした見守り型支援
積極的治療よりも「状態を見守る医療」を選択し、家族の不安軽減につなげた。
考察
本事例は、超高齢者が転倒・入院を契機に生活機能を大きく落とした際、治療の継続ではなく「生活をどう支えるか」という視点で訪問診療を再設計したケースである。
在宅医療は、必ずしも医療処置を行う場ではなく、生活期における安心の担保と意思決定支援を行う役割を担う。本症例では、家族同居という条件を活かしながら、過不足のない医療介入を行うことで在宅療養への移行が可能となった。
ケアマネジャーにとっては、退院後に「医療の手が薄くなる」不安を補完する選択肢として、訪問診療をどう位置づけるかを考える上で参考となる事例である。
付記情報
診療科:内科
病態・症状:その他
世帯構成:親子