在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/23
在宅酸素療法・NPPV管理下でも独居生活を継続した高度呼吸器疾患の事例
要点サマリー
COPDを中心とした複数の呼吸器疾患により、在宅酸素療法(HOT)およびNPPV管理を要する独居患者に対し、訪問診療を軸に多職種連携を構築。医療依存度が高い状況でも、在宅での生活継続を一定期間実現した。最終的には転倒を契機に在宅継続が困難となったが、「独居×高度医療管理」という難易度の高い条件下でも、訪問診療が在宅生活の選択肢を広げたケースである。
基本情報
年齢・性別:79歳・男性
居住地:名古屋市中川区
家族構成:本人独居(キーパーソンは長女)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療(1割負担)
介護保険:要介護2(1割負担)
福祉給付金資格者証あり
診断名
COPD
気管支拡張症
アレルギー性肺アスペルギルス症
ステロイド糖尿病
前立腺癌
陳旧性肺結核
関節リウマチ疑い
導入の背景
長年にわたりCOPDを中心とした複数の呼吸器疾患を有し、Aクリニックから月1回の訪問診療、B病院呼吸器内科へは3か月ごとの外来通院で管理されていた。HOTおよびNPPVを導入しながら、独居生活を継続していた。
2023年までの経過においても、CO₂ナルコーシスによる入退院や吸入薬のコンプライアンス不良がみられ、病状コントロールには難渋していた。より安定した在宅医療体制の構築を目的に、2024年3月より当院にて訪問診療を開始した。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、HOTおよびNPPVによる呼吸管理を継続しつつ、トリルシティ皮下注射を含む薬剤管理を実施。吸入薬の使用状況や在宅機器の取り扱いについても、訪問時に繰り返し確認と指導を行った。
独居であることを踏まえ、訪問看護や家族との連絡体制を整備し、転倒リスクや医療機器管理の観点から多職種でフォローを実施。在宅生活は一定期間安定して継続していた。
しかし、2025年2月に自宅内で転倒し、A病院へ緊急搬送。入院後はADLの低下と住環境調整の困難さから在宅復帰が難しいと判断され、訪問診療は終了となった。
医療対応の詳細
主病・健康課題:
COPD、気管支拡張症、アレルギー性肺アスペルギルス症(PSL4mg維持)、ステロイド糖尿病(トリルシティ・グルベス)、前立腺癌(リュープリン6か月毎)、陳旧性肺結核、関節リウマチ疑い
対応方針:
高度な呼吸管理を要する状況下でも、在宅療養を可能な限り継続できるよう、医療処置・薬剤・支援体制のバランスを重視。独居環境でも安全性を担保できる体制構築を目標とした。
支援のポイント
独居かつ高度医療依存度の高いケースへの在宅支援
NPPV管理下であっても、訪問診療・訪問看護・家族連携を組み合わせることで、在宅療養は一定期間成立し得ることが示された。
医療機器・服薬管理の継続的確認
吸入薬や在宅医療機器は「導入して終わり」ではなく、定期的な使用状況確認と柔軟な調整が在宅維持の鍵となった。
本人の希望と現実的な療養環境のすり合わせ
「自宅で暮らしたい」という本人の意向を尊重しつつ、リスクが顕在化した段階で次の選択肢へ移行できた点は、訪問診療ならではの役割であった。
考察
本事例は、高度な呼吸管理を要する独居高齢者においても、訪問診療を中心とした支援体制が在宅生活を支え得ることを示している。
一方で、転倒などの生活上のリスクが在宅継続の限界点となることも明確であり、「どこまで在宅で支えるか」「いつ次の選択肢に切り替えるか」を早期から共有しておく重要性が再確認された。
訪問診療は、在宅生活を“永続させるための医療”だけでなく、“納得感をもって次のステージへ移行するための医療”としても機能することを示すケースである。
付記情報
診療科:内科、その他
病態・症状:COPD、その他
世帯構成:独居