在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/23
胸部食道癌(BSC方針)独居高齢女性が在宅療養を選択した事例
要点サマリー
胸部食道癌ステージⅢに対し化学療法を開始したが、有害事象と全身状態を踏まえBSC方針へ転換。独居ではあるものの、家族支援を組み合わせることで在宅療養を実現し、訪問診療により生活と症状の安定を図った事例である。
基本情報
年齢・性別:78歳・女性
居住地:名古屋市千種区
家族構成:独居。妹が日中・夜間に適宜付き添い予定
保険・福祉情報
後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護3
診断名
胸部食道癌(ステージⅢ)
肺塞栓症(治療後、安定)
電解質異常の既往
導入の背景
つかえ感を主訴に医療機関を受診し、精査の結果、胸部食道癌ステージⅢと診断された。術前化学療法としてDOS療法を開始したが、腫瘍による高度な食道狭窄により経口摂取が困難となり、経鼻経管栄養が導入された。
治療経過中に肺塞栓症や電解質異常を発症し、全身状態への影響が大きかったことから、化学療法は途中で中止となった。その後、本人の理解と同意のもとBSC方針へ転換された。
腫瘍は一時的に縮小し経口摂取は可能となったものの、今後の再増悪リスクを踏まえ、通院による負担を避けながら自宅での療養を希望され、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
訪問診療導入後は、全身状態と摂食状況の確認を中心に定期的な診察を実施した。独居であることから、妹による見守り体制を前提に、無理のない在宅生活が継続できるよう調整を行った。
肺塞栓症については抗凝固療法により安定しており、急性増悪は認められていない。経口摂取が可能な状態を維持しながら、症状緩和と生活の安定を優先した支援を継続している。
医療対応の詳細
主病:胸部食道癌
治療方針:BSC
対応内容:全身状態のモニタリング、摂食状況の確認、症状緩和を中心とした訪問診療
併存疾患対応:肺塞栓症に対する抗凝固療法の継続
支援のポイント
治療中止後の方針転換に対する意思決定支援
独居を前提とした在宅療養設計と家族支援の組み合わせ
通院負担を回避しつつ、生活の質を維持する医療介入
考察
本症例は、積極的治療が困難となった段階で、早期にBSC方針へ移行し、在宅療養という選択肢を現実的に整えた例である。独居であっても、家族の関与と訪問診療を組み合わせることで、安心して自宅で過ごす環境を構築することが可能であった。
在宅医療は「最期の場所」を決める医療ではなく、「どこで、どのように過ごすか」を支える医療であることを改めて示す症例である。
付記情報
診療科:内科、緩和ケア科
病態・症状:がん
世帯構成:独居