在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/23
直腸癌多発転移の83歳女性に対し、点滴環境を整え在宅療養への移行を支えた事例
要点サマリー
直腸癌を原発とした多発転移により予後が限られていると告知された高齢女性に対し、家族の在宅希望を尊重し訪問診療を導入。点滴管理を含む医療環境を自宅に整え、通院継続への不安にも配慮しながら、在宅療養への移行を支援した。
基本情報
年齢・性別:83歳・女性
居住地:名古屋市守山区
家族構成:本人、夫、次女、孫の4人暮らし(キーパーソン:次女)
生活背景:次女は日中就労しており、付ききりの介護が困難な点が不安要素
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護4
福祉給付金資格者証あり
診断名
直腸癌
多発肝転移
肺転移
リンパ節転移
脾転移
肋骨転移
導入の背景
A病院の循環器内科および消化器外科を受診し、直腸癌原発の多発転移が判明。本人には予後半年程度と告知されていた。
2022年2月末、せん妄によりA病院へ入院。その後3月中旬より吐き気と食事摂取量の低下が出現し、CT検査を実施したが、明確な器質的原因は確認されなかった。
本人および家族は自宅退院を強く希望しており、退院後も点滴治療を継続できる環境整備が課題となったため、訪問診療導入の相談が行われた。
主治医はBSC方針であったが、本人・家族ともにA病院との関係が切れることに不安を抱いており、通院継続の可否や今後の方針については、在宅療養開始後に改めて意思確認を行う方針となった。
介入内容と経過
訪問診療導入により、自宅での点滴管理が可能な体制を構築。
PICC留置下での輸液(エルネオパ1000ml/日)を在宅で継続し、吐き気や全身状態の変化を観察した。
在宅移行後は、本人・家族の心理的負担にも配慮し、病状説明や今後の見通しについては段階的に共有。
A病院との関係性を尊重しつつ、在宅療養をベースとした支援体制を整えた。
医療対応の詳細
主病:直腸癌(多発転移)
病状:肝・肺・リンパ節・脾・肋骨への転移あり
治療方針:BSC(最善支持療法)
医療行為:PICC留置、中心静脈栄養(エルネオパ1000ml/日)
対応内容:症状緩和、点滴管理、全身状態のモニタリング
支援のポイント
在宅退院を実現するための医療環境整備
点滴管理を自宅で可能とすることで、本人・家族の「自宅で過ごしたい」という希望を具体的に支えた。
通院継続への不安への配慮
BSC方針であっても、通院との関係性を急に断ち切らず、心理的安全性を重視した導入とした。
家族の介護負担を見据えた支援設計
日中就労する次女の状況を踏まえ、在宅で無理なく継続可能な医療体制を構築した。
考察
本症例は、終末期に近い段階であっても「どこで過ごしたいか」という本人・家族の意思を尊重し、医療側が柔軟に支援設計を行うことの重要性を示している。
BSC方針=在宅医療、という単純な構図ではなく、通院への思いや不安も含めて受け止めながら在宅療養へ移行することが、本人・家族双方の安心につながった。
訪問診療は、治療の場を移すだけでなく、意思決定の揺れを支える役割も担うことが改めて示された。
付記情報
・診療科:内科、消化器外科、緩和ケア科
・病態・症状:がん
・世帯構成:親子