在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/17
感染リスクと疼痛管理のジレンマを家族と共有し在宅療養を継続した関節リウマチ高齢女性の事例
要点サマリー
慢性関節リウマチを背景に、感染リスクと疼痛管理のバランスが課題となった高齢独居女性に対し、退院前カンファレンスを起点として訪問診療を導入した事例である。治療の積極性を抑えつつ疼痛コントロールを重視する方針について、家族の理解と支援意向を丁寧に確認しながら在宅療養体制を構築した。通院診療と訪問診療を併用し、医療安全性と生活の柔軟性を両立させることで、長期にわたる安定した在宅療養の継続につながった。
基本情報
年齢・性別:83歳・女性
居住地:名古屋市瑞穂区
家族構成:本人独居(夫は施設入所中)。長男は東京在住、次男(キーパーソン)は市内在住
保険・福祉情報
後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護3(1割負担)
福祉給付金資格者証あり
診断名
慢性関節リウマチ
シェーグレン症候群
骨粗鬆症
脊椎圧迫骨折(Th11、L2、L4)
脊椎側彎症
子宮脱
導入の背景
発熱と腹痛を主訴に救急搬送され、右腎盂腎炎と診断された。尿管ステントおよび尿道カテーテル留置、抗菌薬治療後、リハビリ目的で包括病棟へ転院となった。
慢性関節リウマチに対しては、生物学的製剤の使用歴があったものの、重症感染症を繰り返した経緯から中止され、PSL5mgでの維持療法となっていた。今後の減量や疼痛管理を含め、治療方針の再整理が必要な状況であった。
本症例の本質的な課題は、リウマチ治療の積極性と感染リスクのバランスをどう取るか、そしてその選択を家族がどこまで理解・受容できるかという点にあった。退院前カンファレンスにおいて家族の支援意向が確認できたことから、退院と同時に訪問診療を導入する判断に至った。
介入内容と経過
訪問診療では、疼痛および炎症コントロールを目的にPSLとワントラムを継続処方し、整形外科クリニックでの通院診療と併用しながら、症状変化や副作用の評価を行った。膀胱留置カテーテル管理を含め、感染予防を意識したフォローを継続した。
独居生活であることを踏まえ、訪問看護と連携しながらADL低下や生活上の困難を共有し、必要に応じて在宅サービスの調整を実施した。次男との情報共有も密に行い、体調変化時には迅速に対応できる体制を整えた。
訪問診療開始から1年3か月が経過し、途中で数回の入退院はあったものの、大きな悪化なく現在も在宅療養を継続している。
医療対応の詳細
慢性関節リウマチに対しては、生物学的製剤の再開は行わず、感染リスクを抑えた治療設計とした。疼痛と炎症のバランスを取りながら、ステロイドおよび鎮痛薬の調整を行った。
感染管理を重視し、膀胱留置カテーテル管理を継続。訪問看護および整形外科通院との連携により、医療安全性と生活の継続性を両立させた。
支援のポイント
治療方針に迷いがある段階で、退院前カンファレンスを通じて家族の理解と支援姿勢を確認できたことが、在宅導入の重要な後押しとなった。
感染リスクと疼痛管理という医療的ジレンマに対し、症状緩和を優先する現実的な治療方針を共有し、家族と同じ認識を持ちながら支援を継続できた。
独居でありながら、通院診療と訪問診療を併用することで、安全性と柔軟性を両立した療養体制を構築できた。
考察
本事例は、積極的治療による副作用リスクと、消極的治療による症状悪化の間で判断を迫られる高齢患者において、家族の理解と支援意向が在宅医療導入の成否を左右することを示している。
在宅医療は単なる医療提供の場ではなく、治療の「落とし所」を患者・家族と共に考えるプロセスそのものである。医学的判断に加え、意思決定支援の視点が重要であることを改めて示す症例である。
付記情報
診療科:内科、整形外科、その他
病態・症状:その他
世帯構成:独居