在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/17
在宅酸素・NPPV管理下でも独居生活を維持した79歳男性の訪問診療事例
要点サマリー
COPDをはじめとする重度呼吸器疾患によりHOT・NPPV管理を要する独居高齢者に対し、訪問診療を中心とした医療・看護連携を構築。高度な医療依存度がありながらも、在宅での安定した療養生活を一定期間維持した。最終的には転倒を契機に入院・在宅終了となったが、「独居でも在宅療養が成立する条件」を示す症例である。
基本情報
年齢・性別:79歳・男性
居住地:名古屋市中川区
家族構成:本人独居(キーパーソン:長女)
保険・福祉情報
後期高齢者医療(1割負担)
介護保険:要介護2(1割負担)
福祉給付金資格者証あり
診断名
COPD
気管支拡張症
アレルギー性肺アスペルギルス症
ステロイド糖尿病
前立腺癌
陳旧性肺結核
関節リウマチ疑い
導入の背景
長年COPDを中心とした複数の呼吸器疾患を抱え、HOTおよびNPPVを導入しながら独居生活を継続していた。Aクリニックによる月1回の訪問診療と、B病院呼吸器内科への定期通院で管理されていたが、CO₂ナルコーシスによる入退院や吸入薬のコンプライアンス不良など、在宅管理には不安定要素が多かった。
在宅での医療管理をより安定させる目的で、当院による訪問診療へ切り替えとなった。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、HOT・NPPV管理に加え、トリルシティ皮下注射を含む薬剤管理を在宅で実施。吸入薬の使用状況や酸素機器の管理についても、定期的に確認と指導を行った。
独居であることを踏まえ、訪問看護や家族との連絡体制を整備し、転倒や機器トラブルへのリスク管理を強化。在宅生活は一定期間安定して継続していた。
その後、自宅内での転倒を契機に救急搬送・入院となり、ADL低下および環境調整の観点から在宅復帰は困難と判断され、訪問診療は終了となった。
医療対応の詳細
主病はCOPDおよび気管支拡張症であり、HOT・NPPVによる高度な呼吸管理を要した。
アレルギー性肺アスペルギルス症はPSL少量維持療法で管理し、糖尿病は注射製剤を含めて在宅で対応した。
独居であっても医療処置が継続可能となるよう、機器管理・薬剤管理・支援体制のバランス調整を重視した。
支援のポイント
独居かつNPPV管理下でも、支援体制を整えることで在宅療養は一定期間成立する
医療依存度が高いケースほど、機器管理や吸入状況の定期的な確認が重要
本人の希望と現実的な療養環境のすり合わせにおいて、訪問診療が中核的役割を果たす
考察
本症例は、高度な呼吸管理を要する独居高齢者であっても、訪問診療を軸とした支援体制があれば在宅生活が成立しうることを示している。一方で、転倒などの生活リスクが在宅継続の限界となる現実も明確であった。
訪問診療は「最後まで在宅」を保証するものではなく、「在宅で過ごす時間を現実的に延ばす」ための医療である。本症例は、その役割と限界の両方を示す事例である。
付記情報
診療科:内科、呼吸器内科、その他
病態・症状:COPD(慢性閉塞性肺疾患)、その他
世帯構成:独居