在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/17
食道がん術後・多疾患を抱える75歳男性が在宅医療への移行により穏やかな終末期を迎えた事例
要点サマリー
食道がん術後を含む複数の慢性疾患を抱え、外来通院の継続が困難となった高齢男性に対し、訪問診療へ早期に切り替えた症例である。過度な医療介入を避け、本人の「自宅で穏やかに過ごしたい」という意向を尊重した医療設計により、在宅療養から終末期まで一貫した支援を行った。
基本情報
年齢・性別:75歳・男性
居住地:名古屋市東区
家族構成:妻・次男と3人暮らし。長男は名古屋市中村区在住。次男は不規則勤務のため在宅支援が難しい日もある。
保険・福祉情報
後期高齢者医療(1割負担)
介護保険:要介護3(1割負担)
診断名
食道がん術後
COPD(肺気腫)
心房細動
心不全
大腸憩室出血
肺アスペルギルス症疑い
導入の背景
食道がん術後を含む複数の慢性疾患を抱えながら外来通院を継続していたが、下血を契機に緊急入院となった。保存的治療により退院したものの、退院後はADLが大きく低下し、外来通院の継続が困難な状態となった。
ご家族と繰り返し相談を行うなかで、「無理に通院を続けるよりも、自宅で穏やかに過ごしたい」という本人の意向が明確となり、訪問診療への切り替えを決定した。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、生活リズムを最優先とした診療体制を構築した。病状の変動に応じて訪問頻度を調整し、在宅での採血・心電図・超音波検査を適宜実施することで、急性増悪の早期把握に努めた。
服薬については本人・家族の負担を考慮し、必要最小限に整理した処方を継続した。
経過のなかで食事摂取が徐々に困難となり、最終的には本人・家族の意向をふまえて入院へ移行。延命処置は行わず、穏やかな経過で最期を迎えた。
医療対応の詳細
通院困難に対応した訪問診療体制を構築し、生活に過度な医療負担をかけないことを重視した。
在宅では状態観察と必要最低限の検査・服薬管理を中心とし、終末期には本人の意向を尊重した看取り方針を明確にした。
支援のポイント
外来通院が限界となる前段階で在宅医療へ移行したことで、生活の断絶を防ぎ、本人・家族双方の負担軽減につながった。
医療介入の量を調整し、「治療」よりも「生活」を中心に据えた支援設計を行った。
在宅から入院、終末期まで一貫した方針を共有することで、家族の心理的負担を軽減した。
考察
複数疾患を抱える高齢者においては、「どこまで治療を行うか」ではなく、「どのように生活を支えるか」という視点が重要となる。本症例は、外来通院が成立しなくなる前に在宅医療へ切り替えることで、本人の希望と家族の安心を両立できた例である。
訪問診療は医療提供の場を変えるだけでなく、人生の終盤における生活の質を支える役割を担っていることが再確認された。
付記情報
診療科:内科、緩和ケア科
病態・症状:がん、心不全、COPD
世帯構成:夫婦・親子