在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/15
外傷性脊髄損傷を抱える76歳男性に多職種連携で在宅生活を維持した事例
要点サマリー
外傷性脊髄損傷によりADLの大部分が全介助となった患者に対し、訪問診療を軸とした多職種連携(医師・訪問看護・訪問リハビリ・福祉用具調整)を再構築。本人の「リハビリ継続」の強い意志を尊重しつつ、家族負担の軽減と在宅生活の安定維持を実現した。
基本情報
年齢・性別:76歳・男性
居住地:名古屋市守山区
家族構成:妻・長男と同居。長女と孫も一時的に同居し介護を支援
保険・福祉情報
後期高齢者医療(2割負担)
介護保険:要介護5(1割負担)
福祉給付金の対象
診断名
・外傷性脊髄損傷
・関節拘縮
・嚥下機能低下
導入の背景
登山中の転倒をきっかけに外傷性脊髄損傷を発症し、以後ADLはほぼ全介助となった。T記念病院でリハビリを継続していたが、関節拘縮が進行し、車椅子移乗には2名以上の介助を要する状態に悪化。
座位保持も困難で、食事はペースト食を全介助で摂取する状況となった。
一方で認知機能は保たれており、本人は「体を動かしたい」「リハビリを続けたい」という強い意志を持ち続けていた。
医療とリハビリが別体制で支援されていたため、ご家族より「在宅で一体的に支援してほしい」と相談があり、当院で包括的な支援体制を再構築することとなった。
介入内容と経過
・訪問診療・訪問看護・訪問リハビリの三者連携により支援体制を一本化
・座位保持困難に対して、ベッド上での関節拘縮予防と呼吸リハビリを実施
・嚥下能力と栄養状態を継続モニタリングし、口腔ケアと栄養支援を併用
・介護家族へ介助方法の指導を行い、適切な福祉用具導入をサポート
本人の意志を尊重しながら、実現可能な範囲で身体機能維持を図った。
医療対応の詳細
主病:外傷性脊髄損傷
身体状況:
・座位保持困難
・ペースト食を全介助で摂取
・呼吸機能低下、誤嚥リスク高い
対応方針:
・訪問診療を中心とした多職種支援体制を構築
・拘縮予防、誤嚥予防、栄養状態の維持、褥瘡予防などを包括的に管理
・QOLの確保と在宅生活の継続を重視
支援のポイント
・医療・看護・リハビリの一体化支援
病院リハと在宅医療が分断されていた体制を再設計し、情報連携を一本化。
・本人の意志を起点とした個別支援
「リハビリを続けたい」という本人の強い希望を尊重し、実現可能な範囲で支援内容を調整。
・介護負担を踏まえた家族支援
介助方法の具体的指導や福祉用具導入により、家族が継続可能な介護環境を整備。
考察
本症例は、重度の身体障害を抱える患者に対し、本人の希望を中心に据えながら医療・看護・リハビリを一体化した支援体制を構築した例である。
在宅医療では「病気を診る」だけでなく、「どう生きたいか」「どのように暮らしたいか」を尊重した支援設計が重要である。
多職種が協働し、在宅で生活を続けたいという意志を支えることが、在宅医療の本質的価値であることを再確認できた。
付記情報
・診療科:内科、整形外科、その他
・病態・症状:その他
・世帯構成:親子