在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/12
若年・独居・多疾患の生活保護受給者に対する在宅医療支援と制度連携の実践事例
要点サマリー
うつ病・慢性疼痛・整形外科疾患を併存する独居の若年生活保護受給者に対し、訪問診療を中心に、医療・福祉・行政が連携した包括的支援を実施。精神的安定・疼痛管理・制度活用支援を通じて、生活基盤の維持につなげた。
基本情報
年齢・性別:52歳・男性
居住地:名古屋市熱田区
家族構成:独居
保険・福祉情報
生活保護受給中
障害福祉サービス利用
介護保険未申請
身体障害者手帳・特別障害者手当の申請を希望
診断名
・うつ病
・腰椎椎間板症
・十二指腸潰瘍
・左大腿骨顆上骨折(自殺未遂後)
・変形性膝関節症
・高血圧
・不眠症
導入の背景
本人より訪問診療希望があり、精神的・身体的支援の継続が必要と判断された。多疾患を抱え、慢性疼痛やうつ症状により外来通院が困難となっていたことから、在宅で一貫した医療支援を行うことが生活の質の維持に不可欠であった。
介入内容と経過
訪問診療では、うつ症状に対する対話的支援と、身体症状への服薬調整・疼痛評価・生活指導を継続している。
本人の希望に応じ、身体障害者手帳・特別障害者手当の申請支援、通院手段の確保、行政担当者との連携調整など、制度活用に向けた伴走支援も実施した。
精神科(みなみメンタルクリニック)との併診で心理的安定を図り、必要時には代理受診も行っている。
医療対応の詳細
主な症状:長期便秘、左手のしびれ・麻痺、手の震え、慢性腰痛
精神的ケア:訪問診療時に対話を中心とした支援。併診の精神科と連携し経過観察。
身体的ケア:鎮痛薬の調整、腰部負担軽減の体操指導。左手の症状はジスキネジア疑いで観察中。
通院支援:タクシー利用。67歳の友人が付き添い。福祉事務所と連携し、移動・生活に関する制度調整を継続。
支援のポイント
・精神的安定に重点を置いた継続的な対話支援
・疼痛管理と症状把握を徹底し、日常生活への影響を軽減
・生活動作維持のための個別支援計画と指導
・生活保護担当者や福祉窓口との連携による制度利用の最適化
・「孤立を防ぐこと」を目標とした地域連携アプローチ
考察
本症例は、精神疾患と整形外科的疾患が重複し、社会的支援を必要とする独居の生活保護受給者に対し、医療・福祉・行政が切れ目なく連携したことで、生活基盤を安定させることが可能となった事例である。
精神的安定と疼痛緩和は生活の質に直結するため、訪問診療が果たす役割は大きい。また、制度活用支援により「生活そのものを安定させる」視点が強化されることで、長期的支援の基盤が築かれる。
今後も孤立を防ぎ、地域社会とのつながりを維持するためには、医療と福祉の両面からの継続的アプローチが不可欠である。
付記情報
・診療科:内科、精神科、整形外科、その他
・病態・症状:うつ病、慢性疼痛、その他
・世帯構成:独居